市丸帝国

□希望の春:2
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 「吉良とあたしが強く望んだからだとしたら、あとの二人は不幸ね。そこまで望む、誰も居なかったってことになるもの」
 「そう…やろか?」
 「え?」
 「もしかしたらボクも望んだんかもしれへんやろ?ってコトや」
 「あんたも帰ってきたい、戻りたいって…」
 「消える時か?そない思たんかもしれん、分からんけどな?やって今、楽しいで?乱菊が居って、イヅルが居って、うん、えェな、て思うし」


 おとんにしてはナイスなプロポーションの『乱菊パパ』とバシャバシャ楽しく騒がしくお風呂に入って、いつも『イヅルママ』にしているように、パパの髪を拭いて乾かしてから、チビ丸は普段見られない『お肌の手入れ』を物珍し気に、食い入るように見ていた。

 「珍しいの〜?」
 「うん」
 「ギンもマッサージとパック、してみる?」
 「えェの?」


 マッサージやパックなどしなくてもモチモチな肌だが、あまりにも興味津々だったので勧めてみたら、上機嫌だ。
 「あんたと、こんな風に喋って笑える日が来るなんてね…ホント生きてて良かったわ」
 「何なん?」
 「生きてく気力がなくなった時期があったのよ」

 今となっては、ただ懐かしく思い出すだけで済む。あの晩、吉良に「月が見える日が来たら」と言われなかったら、本当に気力がなくなって、すべて放り出していたかもしれない。二人だから百年も待てたのだと実感する。

 「さ、寝よっか」
 「これ、布団一組しかあらへんよ?」
 「狭くて敷けないのよ。ギン、あたしと寝るの、嫌なの?」
 「違ぅけど…夜中に窒息せんかなァ…て」
 チビ丸は乱菊の豊かな胸に視線を向けた。二度、三度も墜ちるのは、チビ丸としては勘弁願いたい。
 「失礼ねぇ、せっかくあたし達のところに帰ってきてくれたのに、そんなことにならないように気を付けるわよ」

 後ろからギュッと抱き締めた。
 「これなら大丈夫でしょ、ギン?」
 「うん。乱菊、柔らこぅてヌクヌクやなァ」
 「あら、吉良もあったかいでしょ?」
 「…柔らこぅはないけどな…」
 「寝ちゃったの?」
 「おにゃしゅ…」


 簡単な朝御飯をチビ丸が作って、二人は街に買い物に繰り出した。買うのではなくても見て歩くだけでも、昼間あまり街に出たことがないチビ丸には十分楽しかった。


 「ただいま、イヅル。お土産や…て、どないしたん!?」
 「あ…隊長、松本さんも…おかえりなさい…」
 「死んでたの?」
 「は…あはは…」


 食材も買い物してきたので、三番隊隊首室でいつもの晩御飯になった。
 「吉良、昨夜や今朝の食事は?ちゃんと食べれたの?」
 「食べ…たのかな?」
 「お母さんがそんなんじゃ、ギンの教育に良くないわよ?」
 「すみません、松本さん。ずっと隊長を独り占めしていた挙げ句、心配までかけてしまって…」
 「いい加減、気付きなさいよね?」
 「?…何をですか?」



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