市丸帝国
□初めての冬:1
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「あら?ギンは充分吉良に懐いてると思うけど?ね〜、ギン?」
「ガキ扱いせんようンなってからは好きやで、イヅル?んで、お茶ァ」
「はいはい…」
やはり立場の逆転はあり得ないらしい…乱菊は、ほのぼのとしたやり取りを見ながらそう思った。(結局、吉良がギンにベタ惚れだから、かな?目の中に入れて遊ばせてるっていうのかしら?さてはあの左目ね!?まぁ、それはおいといて。それにしたって甘やかし過ぎでしょ?)
「相っ変わらずサイズ変わんないわねぇ?これじゃ新しい服買う楽しみ、ないじゃない?」
「着ぐるみを、でしょう?元の隊長くらいに戻っても着ぐるみ姿じゃ、流石に言い訳出来ませんよ?」
「元のボクて、デカかったん?」
「あたし達より頭半分、高かったわ」
ホケーっと見上げて
「ふぅん、そうなんや」
まるで他人事を聞いたとでも言いたげな、感心したように呟いた。
(ホンッとに忘れてるのね?)
(ポーカーフェイスな方でしたけど、これは違うと思います)
「備品お届けに参りましたぁ〜。吉良隊長、受領の最終確認のご署名、お願いしま〜す」
四番隊士だ。既にチビ丸、兎スタンバイ済みだった。ちょこん、と四番隊士の前に立つと、小首を傾げて(勿論、兎の着ぐるみの)両手を出す。
「今日はお菓子持ってないんですよ、ごめんね」
うさちゃん、しょんぼりしてみる。アタフタと懐を探し始める四番隊士。
「あ、飴なら少しあった!これでいい?」
さも嬉しいと言わんばかりに跳び跳ねて『頂戴』と手を出す。
(これは演技ね)
(えぇ。隊長、食べ物以外でも、お菓子なら特に、タダで貰う為なら、演技でも何でもしますよ)
(そ、そう…)
「はァ、ガキのフリも疲れるわァ〜」
四番隊士が帰って、霊圧も遠くなった後で、執務室のソファーで偉そうにふんぞり反りながら、飴玉を口に放り込む。
(可愛いのか、可愛くないのか、すごく微妙…)
(いいじゃないですか、市丸隊長なんですから。何でもあり、なんですよ)
「それより隊長、その飴と松本さんのお菓子を食べ終わったら、ちゃんと隊首室に戻って歯磨きしてきて下さいね?」
「あ〜はいはい。ホンマ、『イヅルおかん』は煩うて堪らんわ…」
家族ごっこは、『乱菊おとん』と『イヅルおかん』に決めたらしい。チビ丸が決めた以上、決定だ。
『おとんはなァ、たンまァ〜に来て、土産やお菓子くれるモンなんやで?ほんで甘やかすんが、おかんの仕事や』
そこまで勝手に決められてしまった。自分をガキ扱いするのは怒るくせに、何でそこまで理不尽なことを…などと思っていては、チビ丸とは上手くやっていけない。
「さて、と。書類も片付け終わったし、今夜はすき焼きにしましょうか?」
「すき焼き〜♪」
「熱燗付き、ね♪」