市丸帝国
□序章/はじまりの秋:3(終)
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「あ〜あ、『振り出しに戻る』かぁ…」
「まっ松本副隊長!?」
「今頃気付くなんて、あんた達、席官として、大丈夫?」
ニッコリ笑う、新三番隊隊長。
「今度は君達にも付き合ってもらおうかな?」
「な…何にですか?」
「鍋だよ。鍋パーティー。賑やかな事がお好きな方だったからね」
生け贄に選ばれたのは、先程大声で乱入してきた、かつて特に可愛がられていた(本人達にイタズラされていたという自覚はない)三人の席官達だった。飲めや歌えやの騒ぎに釣られて、つい顔を出すかもしれないと、吉良は踏んだのだ。もう薬は使えない。警戒されてしまっているだろう。自分達用に改良した解毒薬を使ってもう一度、今度は即効性で強い薬を…という手もなくはないが、出来れば、穏便に誘い出して捕獲したい。
「こういうの、何て言うんだったかしら?」
「狐狩り、です」
「違うわよ…」
「違いませんよ、振り向かずに、五時の方向の気配を探って下さい」
「…来てるわね」
「かなり警戒されてるみたいですけど、これだけ匂いをさせていれば…」
「確かに、普通の鍋や、すき焼きにしては、いい匂い過ぎるわよね?」
「そりゃ、老舗にしか卸さないことで有名な、瀞霊廷一のお肉屋さんの、一番高い肉ですから♪」
「奮発したわね〜」
「彼等が♪」
「あ、そう…」
捕獲対象は、少しずつ距離を狭めていた。いくらあちこちから物品や食料をくすねてきていても、この匂いの誘惑には勝てなかったのだろう。