市丸帝国
□序章/はじまりの秋:2
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「ガ…ガキの形して…あの…速さ…瞬歩なんて…反則、でしょ…」
「…た…隊長に『あんちゃん』…なんて…呼ばれる日が…」
「そうだ!アイツ…おばはん、て…」
何とか息を整える。霊圧は…探れない。見事に気配も痕跡も消している。いや、消されているという表現が正しい。
「やられた…」
「でも、確かに目の前に見えましたよ。本当に見たかった、探していた、僕達の月が!」
「おばはん、て…」
「元々、ああいう方だったじゃないですか」
「出てこい!クソガキ!バカギン!!」
見付けた以上、捕まえる作戦を立てようと、丘の上に戻ったら、酒も摘みもお菓子もなかった。
「あの方に勝とうって方が無理なのかもしれませんね…」
「いい、吉良!?根気よ、根気!餌で釣れるのは確かなんだから、その手で行く……」
「松本さん?」
「アイツ、あたし達のこと、覚えてない…?」
「そう言われれば…」
『兄ちゃん』
『おばはん』
だが、逃げられた時の瞬歩速度も、気配の消し方も、確かに隊長格のものだ。歴戦の副隊長、新米隊長では、手も足も出なかった。
姿形、能力はそのままで記憶はない。そういうことになる。気が遠くなるくらい待ち続けて、ようやく見付けて。その相手には記憶がない!?
「…っ…ふふっ…」
「松本さん?ど、どうしたんですか?」
「記憶がない、ってことはよ?いい?あたし達の手で『望み通りのギン』を作れるのよ…?」
多分無理だろうなと吉良は思ったが、敢えて口には出さなかった。既にあの口の達者さ(悪さ)、食料を持って逃げる早さ(手癖の悪さ)があるのだ。記憶はなくても、性格はかつての『市丸ギン』と同一だと考えた方が、傷は浅くて済むというものだ。だが…
「松本さんが、はじめて隊長に会った時と同じくらいでしたか?」
「あれ?少し、ううん、もっと小さい…かも」
「…可愛いかった…」
「あんた、目、腐ってない?」
「可愛くなかったですか!?だって、背丈もこれくらいで、ほっぺだってプックリしてたし…」
「『おばはん』呼ばわりされても可愛いって思っちゃえるくらい、人格丸くなるほど、歳とっちゃいないわよ!!」
「可愛かったですよ。以前、本で天使みたいだったなぁ…」
「まぁ、いいわ。とにかく『とっ捕まえる』!『餌で釣る』!いい!?」
「あ…は、はいっ!」