風日祈宮
□菊姫物語
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「此度お祓いをお願い致しました姫様は、此方で御座います…どうか」
「あー、ハイハイ」
廊下を渡る足音と話し声で、例の陰陽師が来たのだとすぐに分かった。が、
(『あー、ハイハイ』って、何、そのやる気の無さ!陰陽師っていったら従六位か七位でしょう!?)
中務省陰陽寮の陰陽師といえば、従七位上だと聞いた覚えがある。殿上が許される位階ではなくても、陰陽師ならば、直接帝の御前に出る場面もあろう。いくら他の殿上が許される立場の者達と職種や身分が違うとはいえ、これはあまりにやる気がない。
大好きな物語絵を放置してまで、数日がかりで考案した『追い返し作戦』が、スルスルと乱菊の頭の中から抜け落ちていく。
「噂のお姫サンとやら、居てはりますかァ?」
取り敢えず、縁先のひさしから声を掛けるという礼儀ぐらいは持ち合わせているらしいと値踏みする。だが、内容が頂けない。仮にも参内している納言の姫に掛ける言葉ではない。
イラッとして無言でいたのに、沈黙を了解と取ったのか、敷居を越えてきた。
「御簾越しでお祓いせェなん、無茶言わはる…」
端に手を掛け、事も無げに御簾を払いのけ、几帳も蹴り倒した。その姿を目にした乱菊は、無礼を咎めなければ、という、貴族の姫君としてのプライドをかなぐり捨てた。
「き…き…狐…狐妖怪ぃぃぃッ!!」