風日祈宮

□メタリック・ラヴPart.2
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 待ち合わせ場所を公営駐車場に指定した乱菊に、ギンは駐車時間が長くなったらバイクが盗まれている恐れがあるので、アパート前まで迎えに行くと告げた。

 『でもウチのアパート、狭い道が込み入った所にあるから』

 住所さえ分かれば大丈夫だというギンに、大方カーナビを搭載しているのだろう、と乱菊は有り難い申し出を受けることにした。

 予想より早く到着したシルバーメタリックのフェアレディは、通常エンジン音だった。何時取り外したのかは知らないが、楽しそうに鼻唄混じりでサイレンサー撤去作業に励むギンが目に浮かぶようで笑える。助手席に乗り込んだ乱菊は、車内を見渡してから開口一番で尋ねた。

 『カーナビは?』

 ブルーのサングラスを掛け直したギンは、乱菊に軽く挨拶してから、シレッと事も無げに答えた。

 『え?ンな邪魔臭いモン載っけてへんよ?指図されんの嫌いやもん、ボク』

 ギンがセカンドにギアを入れると、車体が滑るように動き始めた。そこで乱菊ははじめてAT車でないことに気付いた。峠道で族を追い掛け回す『潰し屋』なんだったっけ、と今さらながら思い出す。あちこちで様々なバカ族をボッコにしてきた歴戦(?)の銀メタ車が『見栄張ってトランスミッション』ではなく、『マジ実用でトランスミッション』て訳ね、と乱菊は密かにツッコミを入れて自分を納得させたが、それはカーナビを載せない理由にはならない。

 『カーナビって、音声で一番確実で近い道を教えてくれる機械じゃないの?』

 隅々まで地図を読み、事前にコースを頭に叩き込んでから出発する乱菊達にとって、カーナビはとても魅力的で便利な代物に映っているが、たまの飲み屋と車弄りだけが趣味だという澄まし顔の男は、邪魔なだけだと一刀両断してのけた。

 『面白いツッコミ混じりで松本サンが吹き込んでくれたナビやったら、載せても良ェかもしれへんね?』

 彼の人柄や思考回路を理解している、とは言い難い程度の付き合いしかないし、知りたいと願ったところで乱菊にギンが理解出来る日が来るのかさえ心許ない。意外に呆気ないくらい単純な人物なのかもしれないが、取り敢えず現時点では理解不可能。ギンがカーナビに何を求めているのか、乱菊にはさっぱり分からない。許可を得て開けたウィンドウからは、気持ちの良い風が髪を揺らしている。

 一年で受け持ちが変わったり、数年後には卒園してしまう園児とは違う。このひねくれて成人してしまったらしい情緒欠陥医者に関しては、気長に理解していけば良いのだと、乱菊は手渡されたミネラルウォーターのキャップを捻った。





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