少し長めな読物

□能ある狐
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 「却下」
 計画書に一通り目を通した市丸は、書類も言葉も投げ棄てた。
 「あの…却下とは」
 「却下は却下や」

 『現世における未確認虚の生息地域の調査及び討伐案』

 十番隊との合同任務になる。日番谷発案の計画書は、市丸から見れば穴だらけだ。これでは席官や隊士達を見殺しにしてしまう。
 市丸は、今回の標的となっている虚の特徴や数など、だいたい知っている。手間がかかり、無理難題を吹っ掛けてくる元上司の、失敗作だ。
 だが、知らなかったとしても、この案では首を縦に振るわけにはいかない。三番隊を任されている以上、自隊士を無駄死させられない…この計画書通りに実行すれば、三番隊だけでも確実に二桁の殉職者が出るだろう。

 「十番隊長サンに『ウチの市丸が、このまんまやったら嫌や言うてました』て、言うといで」
 吉良には、何処に不満があるのかさっぱり分からない。
 「市丸隊長。お手間を取らせて申し訳ありませんが、後学の為に、何処に不備があるのか教えて頂けませんか?」
 勉強熱心な副官の為に、普段ならば突き放している市丸は、珍しく説明してやることにした。

 「調査中の布陣が甘い。もし虚が複数居って、背後はえェとしても、横から攻められるコト考えてへん」
 計画書を指し示しながら説明していることを、メモにとっている。
 「んでもって?いざ見付けたら、『氷輪丸で氷漬けにして捕獲』?まァ十二番隊長サンが持って帰れて、言うてはるんやろけどな。ご自分だけでカタ付くて思てはる。まず、何処に、どないな風に、何体現れるか判らん敵を、やで?出来ひん時は、十番副隊長サンのフォローやて。ハナからウチは要らんて言わはっとるやん」
 「でも『三番隊は後方支援』とあります」
 「殿やらせときゃ大人しゅうしとるて思てはるんやろ、殿は重要やからなァ。せやから、ケツは守ったるよ?やけど、真ん中やそれよか、ちょい前の隊士等はどないするん?横っ腹の薄いトコ突かれたらどうしょうもない。あちらサンは死神食いに…殺しに来るんやで?見殺しや」

 周囲をかため過ぎては広域調査は行えない。状況的に『死地』は向かない。だからといって『長蛇の陣』とは。左右のどちらかに縁がある訳ではなのだから、子供の遠足のように、一列でバカ正直に左右を探査など、あり得ない。殿軍を務める以上、被害は最小限に食い止める自信はある。だが、頭は?どこまで目が届くつもりでいるのか。

 「こン場合、拠点を少しずつ動かしながら『四堆』か、『鋒矢』と『鶴翼』の組み合わせか変形でいくべきやろなァ」
 「『孫子の兵法』形編の一つですね?」

 すぐに出てくる所を見ると、副官はきちんと読んで理解はしているらしい。
 幼馴染で、同期の十番隊副隊長は、読んだだろうか?小難しい兵法書など、見向きもしないだろう。市丸には手に取るように理解出来た。



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