少し長めな読物
□かはたれ
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…ねぇギン、どうして帰っちゃうの?たまには朝まで一緒に居てよ…
夜明けまで、まだかなりの時間がある。乱菊は、帰り支度をしているギンの後ろ姿を、ぼんやりと眺めていた。
「ほな、また」
「次はいつ会えるの?」
「気ィ向いたら?」
「あたしから会いに行っちゃダメ?」
「ダ〜メ♪」
手をヒラヒラ振りながら帰るギンの後ろ姿を、もう何回見送っただろう?空しくなるから、数えるのはすぐにやめた。さっきまで横にあった温もりに顔を埋めた。…ギン…あたしは、あと何回、こんな思いをすればいいの?
「…でぇ、思いきって告白したらぁ〜、市丸隊…」
「あ、おはようございます!松本副隊長」
「おはようございまぁす」
「おはよう」
冷静に冷静にと、自分に暗示をかけて、笑顔で挨拶してくる自隊の女の子達の横を通り過ぎる。
「…けどぉ、噂に聞いてたみたいに怖くなくて、すごい優しくってぇ…」
あー、はいはい。ここ最近は、ウチの子と楽しい夜をお過ごしだったようですねぇ、三番隊隊長様?モットーは『恋愛は個人の自由』でしたっけ?新しい子、若くて可愛いじゃない?なかなかおモテになるようで、あー羨ましいですこと。
「おはようサンですな、十番副隊長サン♪」
「おはようございます、市丸隊長。朝から十番隊舎に隊長自ら、何のご用ですか?」
「合同訓練の起案書をな、隊長サンとこに届けついでに、煮詰めるトコやっつけとこかなァ、て」
「ご苦労様です」
「あァ、そや。後から十番隊長サンから渡される思うけど、取り敢えず二部あるから、副隊長サンにも渡しとくわ」
パラパラめくると、小さなメモが一枚、はらりと落ちた。
『今夜、行く』
反射的に思わず後ろを振り返ると、さっき女の子が頬を染めて、ギンの背中を呆けたように見ていた。可哀想な子…もうあの子、相手にされないわね。「悪いけどキミ、もう用なしや」なんて言われないといいんだけど。
「ほな、そないなカンジでお願いしますわ」
隊舎内を一通り見廻りしてきたら、執務室から出てきたギンとすれ違った。
「十日後、宜しゅう頼んますわ、十番副隊長サン。時間調整やら、詳しいコトは、イヅルと相談しといて貰えます?」
「分かりまし…」
「市丸隊長〜♪」
「キミ、誰?」
…酷っ。
「…あ…あの」
「あァ、キミかァ」
あら、珍しいこともあるのね。ギンが、もう捨てるつもりでいる女の顔、覚えてるなんて…等と乱菊が感心していたら、
「十番サンとこで新しく席官にならはったんやて?さっき名簿で見さして貰たよ?若いのに、実戦で頑張ったらしいやん?昇進おめでとサン♪」
「…あ…ありがとうございます…」
「ほな、十番副隊長サン、十日後の演習、そういうコトやから……で、何?」
さっきの女の子が、ギンの隊長羽織を掴んでいた。
「本当に…お忘れなんですかぁ?」
「はァ?」