少し長めな読物

□おもひがなし
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 今宵のあの人は、何処で誰といるのだろう…。月明かりや、星空を好んでいて、灯りなどもともと点けない人だけれど。吉良は、暗い隊首室の方を見やった。

 募りに募って、隠しきれなくなった想いの丈を告げたら「えぇよ〜」と軽い返事を貰ったのが、一年前。
 月や星を見ながら、酒を飲むのが殊の外好きなことや、死神には必要ないと思われるような様々な知識を沢山持っていて、会話の折に触れて教えられることも、間間あった。
 執務室以外でも、一緒にいる時間が長くなり「始終お側にいたら、飽きませんか?」と訊ねたら「んなコトないけど?」と返ってきたから、少し舞い上がっていたのかもしれない。こんな月夜は、いつもなら、明け方までとりとめもない話をして過ごしていたのに…。

「寒いな…」
 ここ暫く独りの夜等、過ごしたことがなかったことに思い至る。もうそばに愛しいひとがいることに慣れてしまっていた。居てくれて当たり前、ではなかったのに。
「…本当に冷えるな」
 独り寝する夜が来るなんて思いもしなかったあの頃を思い出す。いつも近くにいることを許されて、嬉しくて嬉しくて、こんな日がずっと続けばいいのにと、飲んで話をして疲れて眠ってしまうひとを腕に抱いて夜明けを迎えていた頃…。

 愛しいあの人は…


 一年。死神にとって長い時間ではない。思い出というのは何十、何百という単位で数えて生きる。でも…
「幸せ過ぎて気付かなかったな…」
 二人になると仮面を外して、柔らかく穏やかに笑う人がいつも傍にいて、その笑顔を独占している満足感、充実感に慣れてはいけなかったのに。常に自制することを心掛けていたのに、すっかり有頂天になっていたことを反省する。


「…ル…イヅ…イヅル?」
 夢かな?逢いたい、逢いたいと思って眠ったから、夢で逢えたのかな?嬉しいな、貴方から逢いにきてくれるなんて…!
「痛っ!痛いッ!離しぃッ!」
 怒らないで。夢なのに、逢いたかったから抱き締めただけなのに。何で思い通りにいかないんだ?あぁ、そんなに叩かないで…?

「…絞め殺す気やったんか?」
 ようやく目が覚めて、本物だと気付いたので離したら、ぷりぷり怒るあなたが居た。笑ったらいけないのに、笑いが込み上げる。

「ちょお、ソコ、座んなさい」
「はい」
 寝間着を整えて正座した。灯りを点けてみたら死覇装姿の…不機嫌そうな顔。



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