少し長めな読物

□秋扇
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 今日、三番隊に新しい副隊長がくる…らしい。名前は『吉良イヅル』。なかなかの逸材だと、添付されている推薦状に書いてあった。真面目が取り柄だともある。いつか来る日の為に、駒として使えるように仕込めとも言われているが、知ったことではない。

(めんどくさ…)

 仕事なら、書類も戦闘も副官なしでやってきたし、問題も起きなかった。今まで体裁もあって、何人か副隊長を置いたが、気に入らなくてすぐに追い出した。自分から辞めていくように仕向けるなど容易い。


「本日付けで三番隊副隊長に任命されました、吉良イヅルと申します。不束者ではありますが、身命を賭してお仕え致しますので、宜しくお願い致します」
「まァ、精々気張りや」

 掛けた言葉はそれだけ。それ以外に言うこと等ないからだ。

「あァ、そこ、キミの席な。前ン奴が居った時のまんまやから、キミが使いやすいように、適当に片したらえぇから」

 新しくきた副隊長は、真面目な上に、かなり几帳面らしい。早速「失礼します」と、机のまわりを片付け始めた。

 以前の副官が、叩き付けるように辞表を置いて出ていってから……半年は経っとるやろか?もっとやったか?何処か他所の隊で、席官になれた、とか、なれなかった、とか。今回も似たような結末だろうと、ぼんやり眺めていた。

「気が利かなくてすみません。お茶でもお淹れしましょうか?」
「あァ、すまんな。頼むわ」

 初顔合わせはこんな風だった。



 まるでヒヨコの雛か何かのようだった。「市丸隊長」「市丸隊長」と付いてくる。後を付いてくるだけしか出来ないのかと思っていたら、書類も下への指示も、すべて済ませてある。やり手というのは本当らしい。が、正直、うざったい。そろそろ本気で嫌がらせでもして、追い出してやろうかと思い始めた頃だった。

「市丸隊長が、まだ五番隊副隊長でいらした頃のことです」
 お茶を運んできた副官が話し始めた。
「私がまだ院生で、現世での魂葬実習の時、助けて頂きました。あの時から、いつか市丸隊長のお役に立ちたい、と…」

 実習?この子が院生?はて、何のことやら。副隊長してた頃て、何かあったやろか?あり過ぎて分からへんわ…。

「ふぅん…で、吉良クン、やったか?それがいったい何なん?」

 あまりの言い種に、言葉をなくして立ち尽くすかと思えば、
「…いえ、勝手にそう思って、お仕えしたいだけですから、気になさらないで下さい」
 なかなか手強いなァ、と他人事のように思った。


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