少し長めな読物
□夢と現実の狭間
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三番隊の主がいなくなって、何日が過ぎたのか、もう良く覚えていない。いつ夜が明けて、日が沈んだのか定かでない毎日が過ぎている。空席に面影を捜しては、事実に気付きたくなくて書類に没頭してみたりする。隊首署名や隊首印の指定の文字が、嫌でも現実を突き付けてくる。
「吉良副隊長、あの…こちらの書類に…」
顔色を窺うような隊士たち。彼等も肩身の狭い思いをしているのに、どうしても前向きになれない自分に嫌気がさす。
『アカンなァ、そない眉間にシワばっか寄せとるから、幸せが逃げてまうんやで?』
そう言って、よく眉間を小突いた人はもういない。自分より薄い色を纏っているくせに、存在感だけは大きかった。霊圧の差もあったのだろうが、吉良にはそれだけではなかった。あの人の雰囲気が好きだった。何を考えているのか分からないと言われている表情からも、吉良は、彼の微妙な気分の変化を読み取ることが出来たものだ。
『まァた溜息ついとる。ほら、すぐそこまでまた一個、不幸せが近寄ってきとるよ?』
苦笑する声が聞こえてきそうだ。真面目すぎる、肩の力を抜けと、良く言われたけど、貴方の傍に居るためには虚勢も必要で。
『影が薄い、とか幸薄そう、とか色々言われとるけど、腹立たへんの?』
他人の評価が気にならない訳ではないけれど、貴方から必要とされていれば、他に何も要らなかったんだ、批難も称賛も。…貴方さえいれば…。
『アカンなァ、イヅルは一人でもちゃぁんと出来る子ぉやて思たのに…』
また夢でも見てるのかな?貴方の声が聞こえるよ。とうとう気でもふれたのかな?夢でも、精神に異常を来していても、貴方に逢えるなら、もうどうなってもいいや…
『こらこら、引っ付いたらアカンて。霊圧探られてしもたら、反逆の疑いアリ、て言われてまうよ?』
隊長!…市丸隊長!お逢いしたかった…貴方がいて下さらないと、僕は、僕は…!
何も考えずに、必死にしがみついていた。いつもの袖のない羽織じゃない…でも…貴方だ!逢いたくて逢いたくて、抱き締めて抱き締められたかった、大好きな貴方だ!
「ホンマしゃあない子ぉやね…」
「市丸たいちょ…?本物の?」
「せや。心配で来てもた。藍染サンには内緒でな」
事前に許可などとる必要はないとばかりに、勝手に出てきた。かつての上司が、刺激的かつ、派手な演出で出奔(?)したいと、我儘な無理難題を言い出したから、片棒を担がされただけ。その程度の認識しか、市丸にはない。