少し長めな読物

□禊萩
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 「受粉や摘蕾はとっくに終わってますし、冬になるまでは隔年結実を見越した剪定などの作業がないので、ほぼ年中必要な灌水、下草の除草以外だと、この時期は病害虫駆除と、枝が裂けたり果実擦れを起こさないような野分き対策ぐらいしか作業は残ってないんですよ…って!聞いてるんですか、松本さん!?」

 三番隊執務室の窓に凭れて、気分良さげに転た寝している一人の美女が、隊首のみに許された椅子を占領している。

 広げていた本を閉じて溜め息を吐いたイヅルは、喉を潤す為の茶を淹れようと席を立った。

 「これ以上珍しい事が続くなら、大きな嵐が来るかもしれないな…」

 乱菊がどんな気紛れで持ってきたか分からない禊萩が、隊首机に置いた一輪挿しで頼りなげに揺れている。給湯場の小窓から見える空は高く澄み渡っていて、台風や嵐が来るような気配は全くない。

 「…そうか…あの日もこんな天気だったっけ…」







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