短い読物

□まほろば
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 目覚めて気付いたら、横に知らない人影があった。
「…誰や、キミ?」
 もぞもぞと動いている。あぁ、昨夜連れ込んだ、女性型虚だ。思い出したらムカムカしてきたので、返事をする間も与えずに、斬り捨てた。
「誰かボクの部屋、片しといてくれへん?」
 その辺を歩いていた虚に声を掛けた。雑用にしては霊圧が大きかったから、破面か、もしかしたら十刃かもしれないが、関係ない。それに、ここで虚ではない者など、数が限られているからだ。

「またか、市丸。これで何体目になると思っているんだ?」
 あァ、虚やないけど、口煩い方のお人やな、などとあくびをしながら考える。
「…おはよーサンですなァ、東仙サン」
「よくもぬけぬけと挨拶等…まず、今はもう『朝』といえる時間ではない。しかも血の臭いまで撒き散らして…。不愉快だ」
「不愉快やったら声なん、かけはらへんかったらえぇんですぅ」
 まだ何やらお小言が聞こえているが、スルーした。新しい玩具を探さなくては、暇で仕方ないからだ。


 キミがいないから。

 ここには、キミがいないから


 泣いたり、笑ったり、怒ったりと、表情豊かなキミがいないから。だから、暇な時間を埋める玩具がいる。すぐに飽きて殺してしまうのだが、咎められたことはない。ここに自分を連れてきた、この城の主は、勝手気儘に振る舞っても何も言わない。好き勝手に『させてもらっている』と思ったこともない。誰も彼も、自分とは関係ない『誰か』としか見ていない。東仙や、他の虚と同じ。机や椅子と違って、何もせずとも勝手に動いたり喋ったりするだけ。


 キミやないから。

 キミやないなら、意味がない


 喧嘩だか言い争いだかしている虚が邪魔だったから、通りすがりに、やはり斬り捨てた。

「暇やな〜」

 ここに着いてから、まだあまり日にちが経っていないように思うが、暇で暇で仕方がない。着いてすぐ見付けた玩具は、一日で飽きた。次は半日だったか。見付けてすぐ嫌になることも多かった。



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