短い読物

□墨染め
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 日番谷の長い長い説教が終わって、ようやく自室まで辿り着いたら、酔いどれが一人。ひとのお気に入りのソファーに寝そべって、プラプラと酒瓶片手に、随分とご機嫌…斜めだ。

「こんな所で、一体何をなさってるんですか、市丸隊長?」
「ここ、十番副隊長サンの部屋やんね〜?」

 聞く耳持たずか、このヤロウ…しかも隊長羽織は何処に脱ぎ捨ててきた?

「今日な、ウチ、出勤あったんよ、知っとった?」
 勝手に喋りたいように喋らせて、自分はさっさと着替えて、簡単な晩御飯の用意を始める。
「それはそれは。お疲れ様でしたね」
 えっと…あった、現世の超便利グッズ、お湯入れてたったの三分。
 ヤカンに水を入れて、火にかけてから、記憶をさかのぼる。今日の三番隊…?現世まで出向いての大規模な虚の掃討作戦…があったとか日番谷から聞かされていたような…。
「何かあったんですか、市丸隊長?」
新しい瓶を開けて、グビグビと音が聞こえてきそうな勢いでぐい飲みしてから、袖で口を拭っている。…あ〜あ、死覇装、酒臭くしたら、吉良に叱られるわね…って、もう空にしやがった。それ、美味しいって評判の高いヤツだから、残ってたら有り難く頂戴しとこうと思ってたのに。
「隊長も副隊長も出張とったのに、殉職二桁やて。笑えるやろ?」
 相当ヤサグレてるわね。ギンて、落ち込むとグレるから質が悪いのよね…。

「大規模な作戦、戦闘だったと聞いてますけど?」
「うん」
「殉職者がいるなら、色々と事務手続きがあるんじゃないですか?こんな所でクダ巻いてる暇なんてないと思いますけど」
 また、手近な瓶を開ける。まだ飲む気かよ…

「イヅルがなァ〜…」
 吉良に押し付けたって訳?あの子も最前線に出てたんだろうに、可哀想に。
「目ェ滲んで書類作られへんから、持ってきてしもた。手伝うて?」
 今すぐ叩き出してやりたくなった。「出てけ!」と言いかけた時だ。
「別に、取り立てて強い子ぉ等やなかったんよ?」


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