短い読物

□恋愛談義
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「だから〜、付き合うのと、結婚するみたいに、ず〜っと一緒にいたいのとは別なのよ」

 かなり酒が入っているにも関わらず、乱菊は、意識も言葉もハッキリしている。自他共に認める酒豪は、最後までしっかりしているため、貧乏クジをひくことも多いが。

「付き合ってるうちに、相手の良さが分かる、愛情が芽生えるってことも、あるじゃないっすか?」
「バッカねぇ」
「何がっすか?」
「付き合ってるうちに分かるんじゃないの。そういうのはね、最初に会った時にピンとくるのよ。ああ、この人だって」
「んな…決め付けてると、本当の運命の出会い、逃すかもしれませんよ?」
「まさか『俺とか』とか言い出すんじゃないでしょうねぇ?」
「あ、いや、そんなつもりじゃ…」
「あんたはダメよ、修兵?きっと、あたしのこと、ベタベタ甘やかし過ぎて、ダメにするから」
「そんなの、好きなら当たり前じゃないっすか!」

 デコピンを喰らわす。
「好きなのと、愛してるのは、別なの」
「好き、が、愛してる、に変わることもあるじゃないっすか?」
「そうね…変わるかもしれないわね、あんたは」
「『俺は』って俺だけ変わっても仕方ないじゃないっすか!?」
「うん。そうね。あんたがいい人と巡り逢えるように祈っててあげるわ」
 修兵はコッブ酒を煽って、乱菊を問い詰める。
「これから先、俺、乱菊さんのこと、沢山知っていって、好かれる努力します。俺が乱菊さんに認めて貰えるような男になれたら、きちんとお付き合いを申し込んでもいいっすか?」
「駄目…っていうより無理ね。振り向いて貰えなくても、あたし、唯一の相手、決めちゃってるもの」
「誰っすか?」
「最低なヤツだけど、あたしには最高の男」
「俺が知ってるヤツですか?隊長格の誰か?京楽隊長とか?」
「ふふ…誰でもいいじゃない。あんたじゃないことだけは確実なんだし」
「んじゃ、ひとつだけ、聞いてもいいっすか?その人は、乱菊さんに甘くないんすか?」
「適度な距離感と、甘やかしの使い分けが上手なのよ」
「俺が、それを出来るようになったら、その人を越えるくらい、器のデカい男になれたら…」
「ごめんね〜修兵。あたしにとっては最高の男だけど、その他大勢には、最低な男じゃないと駄目なの。あんたがいい男になったら、きっと『その他大勢にとっても』いい男になっちゃうわ」
「分かんないっす…」
「うん、あたしにもよく分かんない男だから」
「分からないのに?」


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