市丸帝国

□夏は来ぬ:2
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 最近出来たらしい『新三番隊仔狐副隊長チビ丸ギンファンクラブ』の会員が右肩上がりで増加の一途を辿っている。三番隊隊士はほぼ加盟していて、一桁から隊士の数までのナンバーは全て三番隊隊士らしい。三番隊が始まりなのは明らかだ。目立つのが他隊の死神だ。老若男女問わず会員に加盟し続けていて、今月の会員特典は『寝起き仔狐生写真』とか。

 「バカよね〜」と笑い飛ばすパパはいいとしても、心配性のママは、寝起き以上の良からぬ写真等が出回らないかヒヤヒヤしている。

 「可愛いのがウリなんだから、卑猥なのなんか出回る訳ないじゃないの…」
 「三番隊や女性死神はいいですよ?会員にいい歳した男性死神がいるから心配なんです…」
 「普段から、あ〜んなギンや、こ〜んなギンを独り占めしてるくせにぃ」
 「変態と一緒にしないで下さいッ!」
 「あれ?違ったんだ?」
 「違いますよッ!」
 「ま、いっけどね。ほんっとに可愛くて素直なギンは、あたし達しか見れないんだから、ね?」
 「そうなんですけど…」



 吉良にとって、今はチビ丸でも『市丸ギン』は神聖不可侵領域で、騒がれたり持て囃されるアイドルのような扱いは、とても不愉快だった。「可愛い〜い」などという黄色い声は不快音でしかなかったが、多くの目があった方が安全だからと、我慢している。元々三番隊隊士は『市丸信奉者』が大半を占めているので、その点に於いては安全牌だったから、隊内でのファンクラブ設立も認めた。

 「まさかここまで大きくなるなんて…」
 「大きくなん、なってへんよ?」
 副官執務机から、チョコンと顔だけ出ているチビ丸が首を傾げている。書類に向かい出すと、銀色の大きな耳しか見えない状態になる。その耳がピクッと動いたと思ったら、
 「茶、淹れよっか」
 ピコピコ水屋に消えた…ん?ピコピコ?吉良は慌てて後を追い掛けた。
 「何なんですか、その効果音は」
 「貰いモンや」
 それは『ファンクラブ一同』からの贈り物で、ピコピコサンダルならぬ、ピコピコ鳴る草履だった。


 「ファンクラブ即時解散!隊長命令!!」



 『新三番隊仔狐副隊長チビ丸ギンファンクラブ』は『仔狐ギンちゃん親衛隊』と名称を変更し、解散の危機を免れた。何が今までと違うのかといえば、三番隊隊士を主軸中心メンバーとし、それ以外の死神には入隊時に、第三席による面接と、三番隊隊長の認可措置を設けたことだ。

 その三席が「私達は解散しても構いません。自分達で勝手に、副隊長を崇め奉りますから。でも、余所でウチと全く関係のない、それこそ良からぬ輩が勝手に何かを設立しても、我々は対抗出来ませんよ?」と吉良隊長を脅したのだ。面接に吉良が加わることは却下された。面接で落とされる者が続出して、誰も入れなくなるからだ。認可するという立場に甘んじる事で妥協したのだ。


 「はあぁぁぁ〜…」
 「…なァ?気ィ滅入るんが感染りそうやから、そない深い溜め息吐かんといてくれへん?」
 「あ…はい。すみません」

 会話だけ聞いていると、どちらが隊長で副隊長か分からない。百年前と違うのは、かつては上司だった京訛りの声が、以前よりかなり高いくらいだ。

 「アホもぎょうさん居てるかもしれへんけど、しゃァないやん?死神ンなったら何百年生きるて思とんの?護廷なん、暇持て余しとる奴等の集団なんやから」
 「そりゃまぁ、確かにそうですけど…」
 「けど?暇なのは事実だからしゃあねぇだろ?」

 「あれ?なして修兄ィ来とるん?」

 要望が多かったので、瀞霊廷通信で『三番隊チビ丸副隊長特集』を組むことになったから、取材に来たのだそうだ。



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