市丸帝国

□希望の春:3(終)
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 「ギン?修兵のこと、気に入った?」
 「う〜ん?」
 「気に入らなかったの?」
 「話は乱菊が一番分かるし、からかうんはイヅルが一番やからなァ…」

 ここ一番のおねだり用『チビ丸スマイル』を浮かべ、小首を傾げ、狐耳をピクピク動かして、吉良に抱き付いたら、卒倒してしまった。

 「な?」

 乱菊は、思い切り背中から倒れた吉良を、ギリギリの所で脳震盪から救い、布団に運びながら考えた。

 「ギンは三番隊には入らない方がいい…のかしらね?こんなしょっちゅう隊長が倒れてちゃ、話にならないじゃないの…」

 だが十番隊に来られて、隊内を掻き回されるのも堪らないし、これはこれで、吉良も幸せなのだろうと思うことにした。

 「自分でコカシたんだから、ちゃんと起こして面倒看ときなさいよ」
 「はァい」

 吉良が翌日、人の姿を保っていることを、乱菊は切実に願った。



 「三番隊隊舎以外の場所と、あと、三番隊士の前以外では、耳と尻尾は出しちゃ駄目ですからね?頭のおかしいおじさんに連れてかれて、帰って来れなくなっちゃいますから」
 「他所では出さへんから大丈夫…って、そない心配せんでも、イヅル並みの『変態ロリコン』は居てへんって」

 「いってきま〜す」と元気に出掛ける後ろ姿を眺めながら、吉良はポツリと呟いた。


 「変態ロリコン…教えたのは絶対松本さんだな」



 チビ丸の銀色の耳と尻尾に、ようやく吉良が慣れてきたのは、桜も花を着飾るのに飽き、青々したと深い繁みを作るのにも飽き始めた頃だった。チビ丸は優に二ヶ月、イヅルママで遊んだ計算になる。



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