市丸帝国
□初めての冬:2
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「イヅル、付き合うとる女の子とか、居らへんの?ボクが居ったら呼べへんよなァ…」
「女の子、ですか?」
「居てへんの?」
「いませんよ」
「乱菊も『彼女』いう雰囲気違うしなァ」
松本さんが居なくて良かった…しみじみ思った。
「お願いですから、松本さんがいる時に、それだけは冗談でも言っちゃ駄目ですよ?」
「ふぅん…」
「今は隊長のお身体が小さいので、家族ごっこしてますけど、松本さんは、ずっと市丸隊長のことだけを想い続けてきたんですからね?」
「イヅルは?イヅルは違うの?」
記憶のないチビ丸に、核心をつくような事をいきなり問われて、吉良は答えに詰まった。どう…なんだろう?僕は、隊長をどんな風に…?
「そない眉しかめとったらアカンよ?」
眉間を軽く小突かれた。以前も、そう言われて良く小突かれてたっけ…
「そこそこ男前なんやから、早ぅ眉間のシワとって、えぇ女の一人や二人、作らな、男がすたるやん」
「さ、さあ、もう遅いですから、そろそろ休みましょうか?」
「何やホンマ冷えてきたなァ。今日はイヅルの布団入れて?」
「…で、その程度のことで鼻血噴いたワケ?」
翌日の昼休みに訪れた乱菊に大笑いされた。
「ホンマびっくりしたわァ、急に病気でも出たんか思て、三席ンとこ走ったんやから」
チビ丸は、ワリと冷静に急いで手拭いで拭いてから濡らした物を渡し、霊圧を消してから、お気に入りの半纏を引っ掛けて、席官部屋まで走った。
「もう、その話は止めて下さいよ…」
普段悪すぎるくらいの顔色を真っ赤にして横を向いてしまう。
「自覚、した?」
「?何を、ですか?」
「…バカ?」
チビ丸は話に飽きて、羊の着ぐるみを被って出て行ってしまった。
年末行事も無事済ませ、新年を、久し振りに隊長がいる状況で迎えた三番隊。極々少数のみが、かつての隊長がいて、『市丸/吉良体制』に戻っていることを知っている。新年を言祝ぐ気持ちも一層強い。
十番隊の新年の挨拶でも、どれだけ振りかの、艶やかで大輪の華のような副隊長の笑顔があった。