市丸帝国
□初めての冬:1
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年末の仕事納めと、新年を迎える準備に慌ただしい中、着ぐるみが隊舎内を走り回って邪魔をしている。いい歳をしたベテランの死神が追い掛けてまわしているのは、三番隊。
「おや、今日は兎の着ぐるみなんですね?」
「♪」
「吉良隊長、あの小さな方は誰ですか?」
三番隊を訪れる客や、三番隊の新米死神にさえも尋ねられる。上位席官が「お待ち下さ〜い」と後追いし、吉良が敬語を使うので、どれだけ霊圧を感じられなくても、軽くあしらっていい者だとは思えないらしい。目の前を通過した(今日は)小さな兎さんは、風船を幾つか握り締めていた。
走って戻ってきて、来客に風船を一つ渡して走り去っていった。
「新三番隊のマスコット・キャラクターだよ」
確かに今のサイズではマスコット・キャラクターでしかない。110cmもないのだ。霊圧はひた隠しに隠して、押さえてあるだけ。だが、そんなことを一々説明する必要はない。
「なァ、こン部屋から出たらアカンの?」
「出来れば、出ないでいて下さると、とても助かります」
「…ヒマやァ〜!」
かつての『市丸ギン』でも今の『チビ丸ギン』でも暇な時間が嫌いなのに変わりはないらしい。だからと言って、寒い流魂街にも戻りたくない。此処なら暖かいし、いつでも美味しいものが食べられる。妥協点をどこに設定するか決め兼ねていた。
そんな所へ「イイモノ持ってきたわよ♪」と乱菊が様々な動物の着ぐるみを持ってきた。全身すっぽり隠れるサイズのものだ。顔も見えない。これならよほどの場所へ行かなければ問題ない。
…という一悶着があっての着ぐるみ疾走隊舎になったのだが。
「風船、浮いてますね」
「なんでも『ヘリウムガス』というのを入れてるらしいから」
「…」
「さて、じゃあ、あとはこの書類に署名、捺印したらいいんだね?」
「今日も元気そうね」
兎は辺りをキョロキョロ見渡して、誰もいないのを確認してから頭の被り物を取って、
「乱菊〜♪」
と抱き付いた。
「あたし、というよりあたしが持ってくるモノが好きなんでしょ?」
「今日のおやつ、何なん?」
「僕なんて、頼めばなんでも出てくる便利屋程度としか思われるてませんから、そうやって懐かれてる方が羨ましいですよ…」