市丸帝国
□序章/はじまりの秋:2
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「御免ね〜?今夜は、お子様用のお菓子も必要かなぁって、甘味屋さん寄ってたら遅くなっちゃったわ」
「お…お子様用の?」
「餌は多い方がいいでしょ?」
「餌…ですか」
「あたしと、あんたと、お酒とお菓子」
「古い演歌じゃないんですから…」
笑いながら、辺りを見渡せる丘の上に陣取る。少し風がある。これなら雲も流れて、月が顔を出すかもしれない。だが、二人が待っているのは月ではなく、月と同じ色を名に持つ人物。何回見上げたか分からない空を見上げる。
「…隊長…」
「今はあんたが三番隊の隊長じゃないの」
「おかしなことを言うと笑わないで下さいね。僕的には『暫定隊長』なんですよ。一番相応しいあの方に、何時でも、この三番隊の隊長羽織をお返し出来るように。だから今の僕は、暫定隊長なんです」
「斬新な響きねぇ」
「お帰りになられても、『三番隊隊長』が空いていなかったら、意味がないですから」
「でも、見た目ガキんちょなんでしょ?」
「ガキ…確かに少年という報告でしたけど…」
下らない冗談や、顔を合わせない間にあった出来事を話しながら、盃を酌み交わす。泣かずに飲めるようになるまで、何年かかっただろう?笑えるようになったのは何年前?それさえ思い出せないくらい、長い時間、秘かに、誓いを確認し合うように、彼を待ち続けた、二人で。
「あんちゃん、おばはん、酒飲ませェとは言わんから、そこの食べモンとお菓子、頂戴」
「…おばはん、て」
「その訛り…」
逃げた。速い。これは瞬歩だ。それも隊長格の!
「待てゴラァ!」「待って!」
見間違うはずがない。聞き間違うはずがない。霊圧を間違うはずがない…市丸ギン、そのものだ。かなりサイズが縮小されてはいるが、間違いなくあの『市丸ギン』だ。