市丸帝国
□チビ丸の憂鬱
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……春
霊術院を卒業したばかりの、希望にミチミチた表情を貼り付けた死神達が、新品の死覇装も眩しく、数日間は斬魄刀を腰に佩き、護廷内に溢れ返る季節だ。
新人につられて、古参やベテランも気合いが入る…一部を除いて。
チビ丸はといえば、去年は新品だった手直し済みの死覇装に、常には佩かないが、斬魄刀は年季も気合いも入りまくりの神鎗だ。
「はァ〜…」
床に届かない足をプラプラさせて溜め息を吐いたチビ丸の前に、静かに淹れたての茶が置かれた。軽く頭を下げてから手を伸ばす。
「もう、四年しかあらへんやん…」
チビ丸の意味不明な呟きには、何の返事もない。ただ、紙を捌く音と筆を走らせる摩擦音が室内に響く。
「あと四年しかあらへんっちゅうとんの」
先ほどのチビ丸の溜め息より重いものが吐き出されたと同時に、ようやく低めだがドスの効いた声が答えてくれた。
「だから何だ?」
他の死神にはない耳や尻尾が忙しなく視界で揺れる上に、意味が分からない愚痴や溜め息を吐かれれば、誰でも気が散るし滅入る。早く出ていけと云わんばかりの霊圧にチビ丸が堪える筈もない。プレッシャー満々の低音にも涼しい態度を崩さない。
「あと四年…早いヤツやったら三年も経たんうちに霊術院の同期が入隊してくるんやな、て言うとんの」
「だからそれが何だ」
部屋の主の不機嫌など何処吹く風とばかりに、チビ丸は話し相手が興味を向けた瞬間を逃さず、まくし立て始めた。
三ヶ月しか在籍しなかったとはいえ、同期は同期。自分を敬遠しながら見下していた同期生が、あと四年で護廷に入隊してくる。それは当然だとチビ丸も理解しているが、彼等より何足飛びも早く、特例で護廷入隊した自分を疎ましいものでも見る目付きをした連中に、果てしなく長い時間を過ごす護廷で逢わなければならないのかと考えるだけで、気が重くなる。
一気に言い募ったら、現金なチビ丸は少し気分が軽くなった。
「なァ、此処、茶菓子もあらへんの?」
勧められてもいない応接セットから飛び降りて、茶棚を漁り始めたチビ丸へ、かなり控え目に抑えられた怒りが向けられた。
「そない怒らんでも良ェやん、自分で探すんやし」