風日祈宮

□メタリック・ラヴPart.2
1ページ/55ページ


 本来なら今頃は東北の温泉宿でゆっくり湯に浸かっている時間だったのだが、乱菊は市丸と二人、何故か街中のゲームセンターに遊びに来ている。


 「今度は絶対に負けないんだからねッ!」

 カーレースで圧倒的な連続敗北を喫した乱菊のショルダーバッグからは、市丸がワンコインにつき一個ずつ仕留めたUFOキャッチャーのヌイグルミ達が顔を覗かせている。

 「あー…、いやァ、そない意気込まんでも…」


 呑みに行く以外に遊びを知らないと言った市丸を呼び出した乱菊は、取り敢えずカラオケに連行して二時間、ボウリングで3ゲーム、映画を一本観てから食事を済ませて現在に至る。

 「カラオケじゃ全然歌えなかった癖に…。貴方、絶対にボウリングとか初めてじゃないでしょ!?」

 遊びを教えて貰うのだからと授業料を払うのは当たり前だと告げたギンに全額支払いを任せてあるとはいえ、負けて悔しくなる心境は変わらない。乱菊が胸ぐらを掴んで噛み付いても、涼しい顔で笑う男に、無性に苛々してきた。



 旅行の二日前になって、温泉旅行がチャラになってしまったのだ。いわゆるドタキャンである。

 一番手は修兵。暦上は連休だから当然休めるものと思い込んで休暇を申請しなかった方が悪い、と乱菊とイヅルの両名にネジ込まれ、可哀想な程に打ちひしがれていた。社長に臨時の休日出勤を泣き付かれたのだ。何日も無断欠勤をした前科もあって断り切れずに欠席と相成った。

 計画性のない修兵を責めていたイヅルは、ギンの代わりに休日診療に駆り出される羽目になり、やはり欠席を余儀なくされた。有給を消化しなくてはならないのはギンと同じなのだが、イヅルは規定の勤務時間の超過はない。休日診療に出勤出来ないと言い張るならば、療養申請が出ている方に頼む、と脅されては出勤しない訳にはいかなくなった、という訳である。


 折角の湯治なのだから二人で行ってこれば良い、と行けなくなった二人に勧められたものの、乱菊には目を離すと直ぐに無茶をする、というギンを監視監督する自信が持てなかったので、温泉旅行そのものを無期限で延期することに決まった。その上、空いてしまった休日、マンションにギンを独りで放置しておくのが不安で仕方がない、とイヅルに泣き付かれた乱菊がギンを呼び出したのだが…




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ