風日祈宮

□メタリック・ラヴ
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 『どうせ走るならお天道様の下』

 真実だな、そう思うくらいには、走り込んできた自覚はある。事実、走り屋だの峠屋だのを自称する迷惑行為を撒き散らす輩は、乱菊にとって軽蔑の対象にしかならない。


 散会した後、気分良く自宅マンションの地下駐車場への道を流しながら、昼間小耳に挟んだ『つぶし屋』のことが急に気になった。部屋へ戻ったら、無線で、今夜バカが集まりそうな場所を探してみようか、そう思った。
 (あたしも、ヤキが回ったかしらね、気になるなんて…)



 無線で尋ねても、会話を拾ってみても、明日が週明けの月曜日というその夜は、近場での小さな『イベント』さえなかった。乱菊は気を削がれた感が否めなかった。ムシャクシャして仕方がない。かと言って、今からタクシーを拾って飲みに出るのも億劫だし、一日走って疲れもある。二日酔いで、園児の前に出る訳にはいかないのだ。
 冷蔵庫を開けて、ビールを取り出したが、つまみがない。早朝に出掛けてしまったため、食料品を買い置きしておく余裕がなかったことを思い出した。溜め息と共に、上着とサンダルを引っ掛けて、近所のコンビニに出掛けた。



 「みんな〜♪お休みの間、元気だったかな〜?では、はい♪おはようございま〜す」
 「おはよ〜ございま〜す」と元気の良い挨拶が返ってくる。幼稚園の保育士も、やはり楽しい。子供は裏表がない。素直に接してくる。全身で泣き、笑い、喜ぶ姿には本当に癒される。
 早速喧嘩を始めたやんちゃな男子園児二人の仲裁に向かう。
 「喧嘩両成敗!」
 まず軽くゴインと叩いて、掴む、噛む、引っ掻くの喧嘩を止めてから、両者の言い分を聞いて、謝らせて仲直りをさせた。
 「松本先生、相変わらずね〜」という同僚の声が聞こえる。
 最近は保護者からの苦情が絶えない。乱菊が保育士になった頃は既にこうだったと、先輩保育士達はいう。手を上げれば苦情、強く叱っても苦情、挙げ句の果てには、粗相をしても苦情が来るのだという。
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