短編小説【2】

□夕立ち
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 遠くの空から雷鳴が響いていた。





 午前中、せわしく鳴り響いていた蝉の音はいつのまにか小さくなり、空は灰色の雲に覆われている。


 いまにも降り出しそうな空に、ほんの少し涼しく感じた風がザァ…と音を立て草花を揺らした。


「なんだか嵐の前触れのようだな。」


タオルを肩にかけ、ぽつりとそう呟いた鈴木は眉を寄せながら空を見上げていた。


「夕立ちとやらか?」


 死々若丸は今朝、たまたま通りかかった時に聞こえてきたテレビを見ながら呟いていた幻海の言葉を思い出した。
 

「…?それはどう意味だ?死々若。」


 凍矢は、死々若丸の言葉に首を傾ける。


「何が立つんだべ?」


 陣も同じく首を傾げる。


「・・・陣、それはそういう意味じゃねぇと思うぜ。」


 酎は、茫然と空を見ながら陣にツッコミを入れた。
 隣で、鈴駒も力強くうなずく。


すると、皆の言葉を聞いていた鈴木がわははと笑い声をあげて笑いだした。


「夕立ちとは、夏のそうだな…。ちょうどこの時間帯に激しい雨が降ったり雷が鳴ったりする天気の事だ。たぶん、もうすぐだと思うぞ。」


 鈴木の説明に、皆が感心の声をあげているとぽつりぽつりと小さな雨粒が落ちてきた。


 それは次第に大きくなり、一気にザァザァ音を立てて降りだした。先ほどまで遠かった雷鳴も、次第に近くなっている。


「これが、夕立ちだべ!」


陣は、その光景に目をキラキラ輝かせると雨の中に飛びだした。


「皆もくるといいべ!気持ちい〜ぞ!」


ほかの5人は一瞬、ぽかんとした表情をしたかと思うと先に凍矢が苦笑しながら外に飛び出した。


「ほんとだ…。冷たくて涼しい。」


凍矢は、空を見上げて目をゆっくりと閉じた。




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