短編小説【2】
□願い事
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真黒な空を見上げれば、ちらほらと小さな星が輝いていた。
梅雨に入ってからというもの雨天の日が多い中、本日は久しぶりに晴れ空が広がった。
桑原家にホームステイ中である雪菜は、お洗濯日和であった今日一日にとても機嫌良い。
桑原家の家事のお手伝いも終わりほっと一息をついた雪菜は、お散歩にでも出かけようかと桑原父に出かけてくる事を告げてから家を出た。
家を出ると、なにやらさわさわと何かが視界の端っこで揺れた。
「和真さん!」
「ゆっ雪菜さん!!どうされたんですか!」
「ちょっとお散歩に出かけてこようと思って・・・それはなんですか?」
そう言って雪菜が指さしたものは、笹であった。
ぬるい風に揺れてさわさわと音を立てる。
桑原は、七夕用の笹を立てているところだったのだ。
「これは七夕用の笹なんすよっ!この短冊に願いごとを書いてこうやってつるすんです。」
そう言って、桑原は短冊に試しに願い事を書いてみせると笹の葉にしっかりと紐を結んでみせた。
「わぁ〜!これで願い事が叶うのですか!」
「おり姫様と彦星様が願いごとを叶えてくれるんっすよ!」
「織姫様と彦星様?」
桑原は、雪菜に七夕伝説について話しをし始めると雪菜は、そのお話を真剣に聞いていた。
「――っていうお話なんすけど…って、ゆ、雪菜さんっ!?」
話し終えた桑原は、へらっと表情をくずしながら雪菜を見ると雪菜の頬にはきらきらと輝く涙が流れていた。
「年に一度しか会えないなんて…七夕の日、晴れてほしいです…。」
「雪菜さん…。…そうっすね。」
織姫と彦星が無事に会える事を願う雪菜の優しさに、桑原の表情は次第に和らぐ。
桑原と雪菜は、ゆっくりと空を見上げるとじっと流れる天の川を見詰めたのだった。
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