kyogoku .
□真っ暗闇のメリークリスマス
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空襲対策のため、灯りの一切消えた街。
その暗闇の一角で1人。
中禅寺はぼんやりと佇んでいた。彼も眠ろうと試みなかった訳ではない。
幾度布団の中で寝返りを打ったことか。
どういう訳か本を読む気にもならない。
ふと日めくりに目をやると、今日が12月24日、つまり敵国の祭日だということに気がついた。
「聖夜……か」
目を閉じて暗闇へと籠もる。
呟きはやけに静かに響き渡った。
こういう夜に必ず思い出す顔がある。
神を自称する彫刻染みた学生時代のとある先輩。
彼は今頃どこの海上にいるのだろうか。
また持ち前の理不尽さで周りを振り回しているのだろうか。
―その亜麻色の瞳には今、何が、誰が映っているのだろうか……
思い出す、なんて本当は嘘っぱちだ。
本当はいつも無意識の内に頭の中で彼のことを考えている。
思っても思っても伝わることはない。
そうやって気持ちを理性で丸めこんできた。
「榎さん……」
こんな時にしか祈りを捧げない現金な僕。
そんな僕の願いだけれど、お願いします。
もしこの想いが実らなかったとしたって構わない、だから、
(神さま、どうか、)
いつかのこの日には笑顔の彼に会えますように――
「あ………」
流れ星。
海上を静かにはぐれ星が流れていった。
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