短い夢「文」
□自動喧嘩人形体験
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「どうしよう・・・・やっちゃったよぅ・・・。」
トボトボと、小さな男の子が池袋の人ごみに埋もれながら歩いていた。
分かっている。あのまま抱きついていたら、臨也を大怪我させてしまっていただろうということも。
だから、臨也が避けてくれたことも、本当は喜ぶべきことなのだということも。
けれど、
「だって、寂しかったんだもん・・・。」
いつもなら、飛びついた先には臨也がいて。
わんわん泣き叫ぶソウマの頭をよしよしと優しく撫でてくれるのに。
「臨也ぁ・・・っ。」
なんだか、帰りたくなってくる。
けれど飛び出してまだほんの少し、新羅だって「まさか実現するとは思ってなかったから解毒剤はまだできてないんだよね。」と言っていたのでなんの解決もない。
臨也の近くにいて、どうなる?
彼は頭がいいから、避けたりすればソウマが傷つくことを知っている。というか、さっきの出来事を見た人であればバカでも分かる。
それなのにソウマがちかくにいたりしたら、変に気を使わせてしまうだろう。
それに、避けられなかった臨也を怪我させるのだけは、絶対に嫌だ。
「どうしよう・・・・っ。」
また瞳に溢れ出した涙がぽろぽろと頬を伝った。
そのソウマの頭上でふいに。
「オーウソウマー?だいじょうぶ?怪我したときはスシ食べるヨ〜。安くするヨ〜?」
「サー・・・ミャ・・・?」
何故か板前の格好をし、寿司屋で働くロシア人。
人は彼をサイモンと呼ぶが、ソウマは本来の「サーミャ」という呼び方を好んでいる。
彼の名はサイモン・ブレジネブ。臨也曰く「何かの格闘技を相当やっている奴」「素手なら池袋最強」と称されている巨大な男。
「ううん。怪我じゃないんだよ。それに、お寿司も今日はお金ないからだめ。ありがとう。サーミャ。」
「オ〜ウ。困ったとき、お互い秋刀魚ヨー。」
「お互い様、でしょ?」
にっこりわらっているサイモンに、思わず頬が緩んでしまう。
「ごめんねサ−ミャ。心配かけちゃったうえにお仕事邪魔しちゃって。」
「ウ〜ン。謝る、違うねネ。ソウマ悪くないヨ〜。来るがいいヨ。ソウマ。店長、ソウマに優しい。手当てしてくれるネ〜。」
「来るがいいってこういうときは使わないよサーミャ。それに、ホント怪我じゃないから・・・。」
優しいサイモンが、ソウマは好きだ。いや、サイオンに関わらず、ソウマの知る人たちはみなソウマに優しくしてくれる。
誰より大切なマスター。臨也。
優しい・・・のだろうかは分からないけど、ソウマが行くと喜んでくれる新羅。
臨也が忙しいときにはソウマの面倒をみてくれる、デュラハンのセルティ。
小さなソウマに出会うたび、こうして話しかけてくれるサイモン。
いつもおまけにアイスやジュースをくれたり、ロシアの昔話をしたりしてくれるロシア寿司の店長。
その他にも、たくさん。
だから、ソウマは池袋が。この街が大好きだった。
「ありがとう。サーミャ。僕、もう大丈夫だから!!バイバイ!!!」
「また来るヨ〜ソウマ〜。」
しばらく。この忌々しい薬の力が切れるまでの間、この街を散歩することにしよう。
早く主に会いたい気持ちを押さえつけて、ソウマは再び人ごみに飛び込んでいった。
「サーミャ、またねっ!!!!!!!!!!!」
心優しい大男。
ぬくもりを感じたまま
次に出会うのは、彼ら。
大好きな街の、休日が始まる。
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