短い夢「文」

□お題
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コーヒーと角砂糖

『ポチャン。』

小瓶からとりだされた角砂糖は白いカップに眠るコーヒーの黒い海へ。

「あのさぁ。」

ソファーの背もたれ越しにその様子を見ていた黒髪の少年は不機嫌そうに口を出した。

「僕、紅茶いれてって言ったんだけど。」

その言葉にコーヒーをいれていた紅い髪の少年が視線も向けずに

「オレがコーヒーを飲みたかっただけだ。」

と切って捨てる。

『ポチャン。』

白い角砂糖は熱い海に溶けてゆく。

「まぁ別にいいんだけどね。コーヒーも嫌いじゃないし。問題なのはさ。」

お盆にのった2つのカップ。

その少年にしては珍しく簡単に受けてくれた申し出の通り、2人分のそれ。

1つはさきほど口をつけていたために恐らくその紅い髪の少年、ユウマの物だろう。

そしてもう1つ。

『ポチャン。』

さっきからその黒い水面をひどく波立たせているそのカップこそが、黒髪の少年、ソウマの物。

「何個目?」

「10」

「君は僕を生活習慣病にしてしまいたいのかはたまた重度の甘党だと誤解しているのか。」

「それは違うな。買いかぶるな。」

ようやくその気ダルげな視線がソウマに向けられたと思えば。

「単なる嫌がらせだ。」

「今すぐそのコーヒー一滴残らず飲み干せ。」

それだけ告げると少年のよく整った顔はソファーのむこうに消える。

「・・・・。」

それを見届けたユウマはスタスタと歩を進め。

『ばしゃ。』

砂糖たっぷりの熱々コーヒーを

つまりはベタベタ熱々のコーヒーを。

略せばベタ熱のコーヒーを

あろうことかソファーに寝転んでいるソウマに向かって。

「発射?」

「カップごと投げといてなに言ってやがる投擲って言うんだよこれは。」

自分の頭にのった白いカップを思いっきりユウマに投げつけながら訂正する。

ユウマは涼しい顔で至近距離から投げつけられたカップをキャッチする。

ソファーもソウマもベタベタだ。

「やるとは思った。」

「だからってそう簡単に止められるといらつくね。」

「仕方ないだろう人の性だ。」

「ほざけ化け物。」

数百年もの時を生きておいてよく言える。

「これから中華の天子様との対談があるんだぞ。どうしてくれるのさ。」

「着替えてシャワー浴びてカップ片付けて終了だ。スタート?」

「自分でなんとかしろってかこのばか。なんで最後きいてんだ。」

「特に意味はないから気にするな。」

「なによりもまず先に君を殺さないといけないきがしてきた。」

うんざり顔で口にしながら濡れた前髪をかき上げる。

というか熱湯をかぶっておいて悲鳴1つあげないソウマもソウマだ。

それを単に機械的に答えていたユウマが首をかしげて微笑で返す。

「意気込みだけは1人前だな。オレに一発でも攻撃を当てられるようになってから言うんだな。」

「寝首を引き裂いてやる。」

「幼稚な奴。」

その黒い発言のどこが幼稚なのか。



たった1杯のコーヒーと白く甘い角砂糖。

どれもその2人にかかってしまえば

喧嘩の種としては申し分ない。
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