短い夢「文」
□いつか
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ずっと友達だよね
「ルルーシュっ。」
屋上で壁に背を預け座り、本を開く少年に駆け寄るその姿は、最早学園ではお馴染みとなっていた。
嬉しそうに顔を輝かせながらトタトタと大好きな親友に声をかける少年は、その本を開いた少年。ルルーシュ・ランペルージとよく似ていて。
黒い髪。アメジストの瞳。白い肌。華奢な体。
けれど似ていないところはとことん似ていない。そんな2人の組み合わせ。
「って。寝てるのかぁ・・・。忙しそうだし、しょうがないよね・・・。」
がっくりと分かりやすく肩をおとした少年、ソウマ・ベルマータはとさっとその場に腰を下ろす。
ソウマの言うとおり、ルルーシュは本を広げたままスヤスヤと気をつけなければ気づかないようなかすかな寝息をたてていた。
転校してきたばかりのソウマにこの場所は心地良いからと教えてくれたのはルルーシュだった。
だから、転校して少ししか立っていない今でも。ここはすでにお気に入りの場所だ。
ルルーシュの言うとおり、ここは優しく日が照らすとても心地よい場所だ。
彼のようについ眠ってしまう生徒を、ソウマもよく目にすることがある。
「でもどうしてルルーシュってばこんなに疲れてるのかな・・・。生徒会は確かに大変だろうけど、確か昨日ルルーシュ来なかったってシャーリー言ってたのに。」
親友の寝顔を見ながらそんな独り言をもらし、ゆっくりと息をついた。
ソウマはまだ知らないことだけれど、その日ルルーシュはまだその名を冠していないテロ組織の作業に追われていのだ。
つまりソウマが知らないのもしょうがないことであり、もちろん体力の無いルルーシュが疲れきって眠ってしまうことも仕方が無い。
双子のようによく似た2人が肩を並べて空を仰ぎ見る。
他の生徒は次の授業のためにいつの間にか姿を消した。
ソウマもルルーシュを起こそうと一瞬考えるが、疲れきっている彼を見るとそれも気が引けるので止めておいた。
転校して半月たっただろうか?そんな状況でしかも教師たちに嫌われていながらサボるのも思えば少し悪い気がする。でも
何故だろう。もう少しだけ、ここにいたいと思った。
少しつついたり物音をたてたりするだけでは起きそうにない、ぐっすりと眠いっているルルーシュに苦笑しながら、ふと。
「ねぇ?ルルーシュ。」
彼の名前が口をついて、
口にしたのは自分なのに、胸がこんなに苦しいのは何故だろう。
「何で、君はルルーシュなんだろうね。」
クスクスと笑みを漏らす口とは裏腹に、細い糸で喉を引き絞られるような、鈍くけれど鋭い痛みが襲う。
「君は、僕はまだ知らないと思ってるんだよね。君の事。ナナリーのこと。僕、これでもたくさん、いっぱい調べたから。皇族のことも、アイツの家族のことも。」
優しく照る日が、酷くルルーシュを眩しく見せる。
ああそれとも、空は言っているのだろうか。
お前は醜い存在だと、自分に言って、嘲笑しているのだろうか。
くだらない自虐的な思想だ。自分でもそう思う。
けれど、ソウマは自分は彼の隣にいるにも関わらず。この姿は彼のように眩しくは見えないだろうということだけ。どこかで理解できていた。
「君は、できれば名前を全て隠すべきってこと。分かってたはずなんだ。それなのにランペルージという名前だけを新しく冠し、どうしてルルーシュのままなんだろう。」
ふぅと、彼は小さく息を吐く。
ああ。酷く眩しい。
彼は自分とは違うのだ。酷く。恐ろしく。そして残酷なまでに。
自分がどれだけあがいて
どれだけ叫び、懇願しても
この眩しさは、手に入らないどころか
この細い指先に、ただ触れることすら叶わない。
「ルルーシュ。」
どうしても届かない。
自分は、
自分は、この手を汚してしまったから。
他者の血で。それも、自分にとって
とても大切な人の血で。
それならば、自分は彼のこの眩しさを、
ただ、守ることを
「ねぇ。ルルーシュ。スザクも君も、ずっと。ずっとさ。」
守りたい。
彼を。彼と親しい彼の大切な人を。
過去、悲しみに汚された彼のセカイを
守りたい。
「ずっと、友達だよねっ。」
願いだけが増えていく。まだ何もなせてはいないのに。
けれどきっと、この気持ちだけは
本物だと信じてる。
「きっと。」
僕が、守るから。
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