短い夢「文」
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『 お兄ちゃん 』
「まったく。琴波のヤツどこいきやがったんだろうね。」
ここは、ああそうだ。遊園地だ。
親子やカップルが楽しそうにはしゃぐ遊園地。
どうせなら、彼女と一緒に来たかった。というかこういう願望は彼女がいないヤツが言うことで、僕にはちゃんと彼女だっているのに。
なのに。だよ?
「おにいちゃあああん!!!」
・・・いた。
「琴波!!どこ行ってたのさ!?」
「え、えっとね?お兄ちゃんにアイスクリーム、買ってきてあげたくてっ、」
「・・・・チョコ?」
「え、ううんっ。バニラ・・・。」
「・・・・・はぁ。」
明らかに落胆したような顔をしてそっぽを向くと、両手にソフトクリームを持って、笑顔を引きつらせた妹が喚かんばかりに声をあげた。
「あああぁあぁぁあっっ!!何でお兄ちゃんそんな顔するの!!?酷い!!琴波せっかく奢ってあげようと思ったんだよ!?」
「小学生に奢ってもらうほど困ってない。」
「酷いんだお兄ちゃんお兄ちゃんだってまだ高校生じゃん!!」
「作者の都合的な説明いらないから。あと小学生と高校生じゃ全然違うから。」
差別だー!!と煩く喚く妹。
日野原 琴波。
僕。日野原 奏真の妹。
今日は、ああそうだ。家族で来る予定だった遊園地ってだけで憂鬱だったのに、
スーパーの福引でハワイのペア旅行券を当てた両親が飛行機で旅立って、
んで、行かなくてすむと思っていたのに泣いて「連れて行って」なんて言うから、
「っていうか、何が悲しくて僕がこんな子守みたいなことしなきゃいけないんだよ。遊園地で?小学生のこんな妹と?ばっかみたい。」
「うわああぁぁあぁああああんお兄ちゃんのばかばかばかあああっっっ!!!!」
「っちょ、琴波待て!!そんな大声で」
「うわああぁぁああぁああああぁぁぁあああぁああんっっっっっっ!!!!!!!!!!!」
どうして、こうなるのだ。
道行く人は冷たい視線をこちらに向ける。
琴波の手で溶けかけている白いアイスクリームよりも、ずっと冷たい、それでいて鋭く突き刺すような視線。
ああ。これだから嫌なのだ。
「琴波。」
この妹と、人前にでるのは。
「ふえっ?」
溶けて流れ、琴波の小さな手を汚しているアイスクリーム。
うん。やっぱりこっちのほうが視線より、あったかい。
あと。まぁ当然だけど。
甘い。
「お、おおおおお兄ちゃん!?」
「で?それ食べたら観覧車乗るんだろ?」
「えっ、でもお兄ちゃん妹と2人で観覧車なんて恥ずかしいって、」
「琴波は恥ずかしいの?」
「っ、そんなことないもん!!」
だから、嫌だったのに。
「じゃ、行くぞ。早く食べろよ?琴波。」
片手からすっと自分のぶんのアイスクリームを抜き取って、そのベタベタする手を、迷子にならないように。
視線が急に、あったかくなった気がする。
−あ〜あ。
これだから、人前でこの妹と。
・・・・・・・・・
この、かわいくて仕方ない妹と、
出かけたくはなかったのに。
泣くとか、反則でしょ。
「お兄ちゃんが買ってくれたアイスおいしい!!」
「今度からイチゴもいいかな。」
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