★短編小説★
□それは『恋』でした
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「この本返却お願いします」
「はい・・・・・学年クラス番号は?」
「3年3組7番です」
図書委員が貸し出しカードを探している音を背中に感じる。
「あ、ありました
はい・・・・・木更津くんですね」
図書委員の受付係の声に私は振り返った。
《それは『恋』でした》
「返却日が一週間遅れてます
気をつけてください。」
「・・・・あ、ハイ、すみません」
ぺこりと軽く頭を下げた黒髪の彼が本棚に向かってこちらに歩いてきたから私は手元の本に視線を落とす。
木更津、淳、くん。
私の、好きな人。
話したこともないけれど。
話したこともないのに『好き』なんて図々しいですか?
それでも好きなんです。
でもきっとこの淡い恋心は誰にも知られずいつか消えていく。
誰にも伝えられないまま。
初対面の人と話すのが苦手で、だから友達も多いとは決して言えないこの私。
きっと言えない。この想いは。
きっと。