呪術者の楔
□三章:術の修行と式神と
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狼の鬼神に襲われた晩を明けて、その翌日。
私は朝早くに、おじいちゃんと屋敷の外へ出た。
「周りに鬼神の気配があるのは分かるか?」
「うん、なんとなく。」
「今周りにいるであろう小さな気配(鬼神)のことを、雑鬼という。これは、人を傷つけることはしない鬼神たちだ。何か起こすとしても、ちょっとした悪戯くらいだ。」
「へぇ・・・」
私は気を張って辺りを見回すと、数匹の雑鬼がこちらの様子を伺っているのが見えた。
しかしそれらは私と目が合うと、吃驚した様子で姿を消してしまった。
「ねぇ、雑鬼って臆病なの?」
「あぁ・・・まぁ利発的ではないな。」
私は昨晩会ったあの恐ろしい狼の鬼神と、先程の雑鬼たちを比べると、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。
”良い奴もいれば、悪い奴もいる”
その言葉を頭の中に反芻させながらも、私は注意深く、もう一度周りを見回した。
しかし、もう雑鬼たちの姿はどこにもなかった。
「まず清音には・・・印結びからではなく、札を使う術から教えた方がいいな。」
「お札?」
「あぁ。札を使用する術は、少しの気力と体力で遣える。つまり、素人の清音には最適な術法。今のお前はまず、術に慣れないとな。」
「うん。」
私がそれに頷くと、おじいちゃんは懐から一枚のお札を取り出した。
私には読めない文字が、墨で短く綴ってある。
「見ていろ。」
そう言うと、おじいちゃんは私のもとから離れて林の真ん中に一人で立つ。
おじいちゃんが立っている場所には、僅かな土煙がたっている。
―ゴゴゴゴッ!
しばらくすると、地響きと共に土の中から大きなミミズのような鬼神が出てきた。
それはギュヮアッ!!と鳴くと、おじいちゃんに目掛けて大きな口を開きながら突っ込んできた。
「危ない・・・ッ!」
私は思わずそう口に出すと、おじいちゃんのもとへと走った。
しかし、おじいちゃんのもとに辿り着く前に、強い閃光が視界を遮った。
―パァァァンッ!!
「ギイイィッ!ギュヮァアッ!!」
それと共に鬼神の断末魔の叫びが木霊した。
私は必死に目を凝らすと、そこにはおじいちゃんが札を掲げている姿があった。
その札は強い光を放ち、前にいる鬼神の体に五茫星を貼り付けている。
鬼神はそれが苦しいのか、のた打ち回っていたが、少しすると動かなくなって消えてしまった。