呪術者の楔

□一章:始まりの合図
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―私はごく普通の中学生、その筈だったのに。
 あの日を境に、普通の人間ではなくなった。
 人とは違う、力を持ってしまった。






「じゃあ、また明日!」
「うん!またねー!」




学校が終わって友達と別れると、私は家への帰路についた。
家と学校の距離はそう遠くはないので、私は自転車ではなく徒歩で通っている。





「(あ・・・またいる。)」





学校の近くの幾千橋という橋を通ると、そこには小さな鬼のような生き物がいた。
それは、人間を怯えるようにして橋の端っこに佇んでいる。




―私は、小さい頃から変な生き物が見える。
 物心がついたばかりの頃はそれがとても怖かったけど、何度も見るうちに慣れてしまった。
 
 小学生の頃まではちょくちょく見かけるくらいだったが、中学生になると突然、毎日のように見るようになった。
 それ以来、私は祖父からもらった数珠を手にしている。所謂、お守り代わりだ。
 信用はしていないけど、気休めにはなるだろうと思い、毎日身につけるようにしている。





私は何食わぬ顔で小鬼の前を通り過ぎた。
こういうふうに見知らぬ生き物が見えたとしても、私は話しかけたり、近づいたりはしない。
別に怖いわけではないけど、なんだか面倒なことになりそうだからだ。
そもそも、このよく分からない生き物と言葉が通じるかどうかも問題だ。





「・・・ック、ゥウ・・・ッ!」
「・・・?」



途端、後ろから聞こえる呻き声に、私は振り返った。
先程の小鬼だろうか、と思えば予想は当たった。




「・・・ゲン・・・ッ・・・テ・・・ヤル・・・」
「・・・な、なに・・・?」




ぶつぶつと小さな声を発しながら、此方へゆっくり歩み進んでくる小鬼に、私は始めてこの生き物に恐怖を感じた。
私の腰くらいまでしかない、小さい鬼だけれど・・・威圧感、のようなものが私にのしかかってくる。







 
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