短き夢物語

□リバース・オブ・クルスニク─槍と精霊のもう一つの物語─
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『――…〜♪』



――カナンの地。ビズリーを倒し、オリジンの審判を越え、ルドガーは全ての分史世界の消滅を願い、その願いは叶い、正史世界を救われた。

そして……自分の代わりに骸殻の反動を受け、時歪の因子《タイムファクター》となりかけたエルを救うため今…彼は骸殻を発動し、自分がエルよりも先に時歪の因子となり、オリジンの審判を終了させ、エルの時歪の因子化をリセットさせようとしていた。


時計と直接契約し、最終骸殻へと辿り着き…そして自分も時歪の因子となるリスクをおい、ビズリー戦での骸殻発動で既に限界寸前だった彼は…再度骸殻を発動させて、時歪の因子となる所であった。



『……〜♪』



ルドガーは歌う。よく兄、ユリウスが歌い、聴かせてくれていた『証の詩』を。
それは今目の前にいるエルや、周りにいる今まで自分と一緒戦ってきた仲間達との別れに、後悔など無い、というかのように。

……自分達に、このカナンの地へ来るための『橋』となる為に、命を落としたユリウスと同じように…。



『……〜♪』



止まる事無く続く歌。そしてそれは遂に……オリジンの審判の終了を告げる、時歪の因子化した者達を数えるカウンターが動く音と同時に放たれた光と共に終わり…ルドガーは光に包まれ消失した。


――こうして、長く続いた『オリジンの審判』は…人間の勝利と…全ての分史世界の消滅と、999999人のクルスニク一族の犠牲と…ルドガー・ウィル・クルスニクの消失で、幕を閉じた。





――――――――――――







「――……?」



――消失した筈であったルドガーが、不意に自分の身に起こった事に気付いた。

確かに彼、ルドガーは世界と一人の少女を救うため、消失した筈であった。




だが今、彼の耳には鳥のさえずりが聞こえてきたのだ。
ルドガーはそれが気になり、ゆっくりと目を開いていった。


開いた視界に映ったのは、青い空とエレンピオスでは見ることの無かった木々…そして……



「――あら…ようやく起きたの?」


「えっ…!?」





――自分が救おうとして手を伸ばし…そして救う事が出来なかった女性。
分史世界のミラが自分を見下ろしていた。


…しかも何故か…膝枕されていた。





――――――――――――




「――そう…私が居なくなった後、そんな事があったの…」


「…………」


――ルドガーはミラに、彼女が居なくなった後の事を話した。
ミラは驚きながらも、ルドガーの様子を見て頷いていた。

ルドガーもミラから話を聞いたら、どうやら彼女もこの場所についてはよく分からないらしい。
それどころか、彼女が目を覚ましたと同時に、ルドガーもこの場所にいたらしい。

つまり、彼女とルドガーはほぼ同時にこの場所に落ちていた、という事なのだ。


因みに膝枕の事も聞いてみたら……


『――べ、別に深い意味なんてないわよっ!ただちょっとツラそうに見えたからやっただけよっ!』


……と顔を赤くして言われた。
ルドガーはこの時不思議そうに首を傾げていた。



「――それじゃ、そろそろ行きましょう?」


「…………?」


「…ただここでじっとしてても何も分からないでしょ?幸い武器もあるみたいだし…近くに村があるか探しに行きましょう」


「……あぁ」



ミラの出した言葉に、ルドガーは自分のすぐ近くを見ると確かに、自分の双剣がそこにあった。
ルドガーはそのミラの提案に頷くと、双剣を手にとった。



「魔物がいるかは分からないけど…私とアナタならリンクすれば簡単でしょ?」


「……あぁ!」


ルドガーを見て、どこか楽しそうに笑ってそう聞いてきたミラに対し、ルドガーは頷いて答えると二人はそこから歩き出した。



――クルスニクの青年と、分史の少女の旅は……再び始まった。
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