short

□副長、隊長、そして俺
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『真選組の副長って格好良いよね〜』

『隊長も格好良いよ!』



女子が浮き足立つこの季節
街中が某メーカーの商品パッケージに代表される赤色に染まり
女の子の写真が一面に貼られ広告塔がジャックされる

街全体が一体となって恋に悩める女の子達の背中を押してやる季節


そう、もうすぐバレンタインデーなのです
どうにも居づらい雰囲気でありまして、男達は心なしかうつむき気味に早足で通り過ぎていくように見えます。


かく言う俺もその内の一人なのですが、別に誰にも注目っていうか気配を感知されてないみたいで、っておれは地味ではないんですよ!まぁ、ぶつかっても足踏まれても謝られません、


でもなんだかソワソワして仕方無いこの季節
やはり俺にとっても期待がありますが俺の立ち位置というのは監察という仕事上地味なものでありまして、

先ほどの会話の中に俺の名前が出てこないことから伺えるように

華のある副長、隊長の後ろに隠れてしまい、毎年希望の光が見えてこないので

やっぱりこういう感じのイベントは苦手だなぁと思いました。




山崎 退





「って作文ンンンンンン?!」



* * *





晴れた空の下ミントンの素振りをするのは最高で思わず腕に力がはいります



――フン!フン!



少しだけリズミカルな素振りはなんだろう
俺は苦手とは思いながらも、ちゃっかり期待はしてしまっているようだ


―――フン!フン!



ミントンの素振り中にも思わず顔がほころんでしまうのだもの




「山崎ィィィィ!!!」

「ヒィ!副長!!」


今日は一体どうしたっていうんだ


「俺は街中に過激派浪士の影がないか見てこいって言ったじゃねぇかァァ!!しかも冒頭部分の女の会話を何故入れた、イラッときたんだけどォォォ!!!」
「ギィヤァァァ!!!」



「あ、地味山じゃねぇかィ」


沖田隊長ヘルプ!ヘ―ルプ!



「後で駄菓子買ってこいよ」

「そんなぁ…」

助けの言葉は最後まで紡がれぬまま俺は副長にボコボコにされていきます

「甘いものが食べたいんでさぁ。あ、んまい棒のチョコ味な。」

「俺のマヨネーズも買ってきとけよ」

「こいつには買わなくてもいいからねィ」
「何だと?もっかい言ってみろ」

「犬の飯製造機13には伝えたい言葉なんかありやせん」

「コノヤロォォォォォォ!」




沖田隊長が副長を挑発して俺への攻撃が弱まったので、力では応戦出来ない俺はこの監察で鍛えた俊敏性をいかして

――ダッ


山崎退、全力で逃げさせて頂きます



――ガッ


「ヒィ!」


「オイ逃げようとしてんじゃねぇぞ、山崎ィ」



――トントン



「んまい棒買ってこいよォ、山崎ィ」



背後からの殺気に冷や汗をながすと、
そこには瞳孔を開ききったような副長と
この世のものとは思えない程憎たらしい顔をした沖田隊長がいた

二人の意志は違えど
囲まれた……!

観念して力を抜いてうなだれることにする
「沖田隊長は俺が買いにいかなくてもお菓子貰えるじゃないですか…」


すると何言ってんだコイツとでも言わんばかりの顔

「どういうことでィ?」

この人はバレンタインデーというものを知らないのか!


「どういうことって、来週はバレンタインデーじゃないですか」

「あ、そういえばそんなのもあったねィ」

本当に忘れてたみたいです。



「しっかりしてくださいよ」

「うるせぇやいざきめ」

「ひぃ!すいません」

隊長はからかっては駄目だね
だって思いっきり刀突きつけられたもの
ていうか突きつけられてるもの


―トントン、

「あの―お取り込み中すみません」

「ハ、…ハイ」

沖田隊長はチッと舌打ちをしてから、1、2秒でやっと刀を鞘に納めてくれた


「これ、一般市民の方からお届けものです」

ああ、この桜色はお二人のどちらかへのものだと俺は悟った。

「ハイこれ、副長か隊長にでしょう、」



―どうぞ、副長

俺の手から離れていった、その可愛らしさのつまった袋。
あーあ、バレンタインなんて、


副長は袋を開けて、
すぐに閉じた。

「これ、俺にじゃねぇぞ。」

ニヤリと笑う副長

「オラ、総悟」

ポイと効果音が出そうなくらい気軽に桜色は隊長の手の上へ。
あ、ちゃっかり手を構えてる。

隊長なら貰った瞬間に食べそうなもんなのに、副長と同じく袋を広げたまま
頭の上にはてながつきそうな感じで不思議そうな顔をしている。

「あ―そういうことですかィ」

ニヤリと笑うと、またもや同じく袋を閉じた。


「ザキ、これ始末しときなせェ。」

ポーイ、今度は思い切り放り投げられました。クソゥ、隊長め、笑いやがって―。





始末とはいえども、この甘い香りは間違いなくお菓子であろう。
いいや、開けちゃえ。


中に入っていたのは、
トリュフと1枚のカード



『山崎退さんへ

誕生日おめでとうございます』



名前もしらない「君」へ、
暖かい思いが一足お先に
僕の胸に届きました

「とっても美味しいです。」



俺、そして隊長、副長
(そんな素晴らしい日!)







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