若いんだからしょうがない

優等生と虹
1ページ/4ページ




『優等生と虹』




「お前提出したー?」

沖田にそう問われるとすぐに何が?と疑問の言葉が出た。

「進路調査だよ、あったろ?茶色い封筒に入った…」

ああと沖田の言葉を遮り手をたたくと、確か鞄には入れたはずと携帯と財布、くしゃくしゃになったプリント類しか入っていない鞄に手を入れた。

「これ?」
「それだけど…ひでぇな」

沖田が眉を寄せそれはねぇよとため息をついた。
進路表在中と書かれた小さい茶封筒は、ゴミと間違えるほどにしわくちゃになって机に転がされる。唯一の救いはそれが破れていなかったこと。
これくらい大丈夫だよとそれを広げ、手のひらでアイロンをかけた。

「ゴマ…お前本当にだらしねぇな」
「うるせ、いらねぇ配布物が多すぎるんだよ」
「いるものといらないものの区別くらいつけられるようになれよ」

沖田はその茶封筒を奪うと了承も得ずに中身を取り出しそれを眺め始めた。
次の瞬間また眉を寄せるとお前なぁと目だけこちらに向け、広げた白いプリントを机に勢いよく置いた。

「しかも何も書いてねぇじゃん」
「今発掘したんだから当たり前だろ」
「今日までだぞ…どーすんだよ」
「明日でも大丈夫だって。長谷川に提出すんだろ?」

あの適当な先公なら大丈夫だろと笑うと、沖田は違うと短く返事をした。

「まずクラス委員に提出すんだってよ」
「クラス委員?」

まったく思い当たらなくて聞き返すと分かりやすくため息をつかれた。
志村って奴だと教えられるがそれもぴんと来ない。さすがに沖田に苛つかれてるのは分かったが、知らないものはしょうがない。どいつだと問うと沖田は窓際の一番前の席を指差した。
どれどれとその指を追うとその先には真っ黒な髪をし、眼鏡をかけた糞がつきそうなほど真面目そうな男が座っていた。

「あんなの居たっけ?」
「まぁ、実際いるからなぁ」
「苦手…やー、嫌いそうなタイプ」
「だろうな」

おめぇとは正反対な性格の男だと沖田は言う。噂では真面目で融通がきかず、笑いもしなければ怒りもしない。感情をもたない冷血優等生らしい。女子の間では冷血眼鏡と呼ばれているらしいぞと、沖田は空白だらけの進路表を机に置いた。

「へぇ、何気に存在感バリバリじゃん」
「ある意味な」
「つか、あいつに提出したら進路バレんじゃん」
「バカだなぁ、その封筒に入れて封して出すんだよ」

当たり前だろと沖田は面倒臭そうな顔をした。
一々うるせぇとそいつを睨むと同時にチャイムが鳴る。沖田は席に戻る前に進路表を今日中に出せよともう一度言った。
お前も真面目だなと返すと面倒は嫌いなんだと意味不明な答えが返ってきた。進路表を書くことの方が面倒だと返そうとした時、教室のドアが開き号令が響いた。
今気付いたが、今日はそのクラス委員が日直だったらしい。
キチンとしたその号令に嫌気がさして、その真面目そうな後頭部に舌打ちをしてやった。




「進路表」

顔を上げると目の前にあの眼鏡がいた。学ランのボタンが一番上まで閉まっていて鬱陶しそうだと寝ぼけ眼でそれを見る。

「進路表、今日までなんだけど」

そいつはもう一度催促の言葉を出した。すでに帰りのHRは終わっていて、いつも通り沖田に起こされて帰るはずだった。ポケットに入れた携帯が鳴る、ゆっくりとした動作でそれを見ると沖田からメールが入っていた。こんな至近距離でなんだよと思いながらメールを開くと思わずまじかよと口を出た。

『先帰る。お前、逃げられねぇぞ』

目線を携帯の画面から目の前に立つその男に向けた。そいつなニコリともせずに進路表を受け取ろうと手を差し出していた。
心なしか周りが引くようにこちらを見ている。口パクでガンバレよーと伝えて教室を出て行く奴もいれば、「ゴマが捕まったぞー」と大声で笑いながら帰る奴もいた。とりあえず誰もがこいつに関わらずに帰ろうとするあたり、こいつは相当厄介だと苦笑いを浮かべた。

「あー、明日でいい?今日、急いでんだ」
「…締め切りまで、随分あったけど?」
「進路だぞ?悩んでんだって」
「悩む時間もあったはず」

面倒くせ…
沖田が言ってたのはこのことかとそこで初めて沖田の言っていたことを理解した。そしたら詳しく教えていきやがれと怒りの矛先をかえてみるがこの真面目腐った優等生から逃れることは出来なかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ