若いんだからしょうがない

お願い☆セニョリータ
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「あーっぢぃ…。」
「知ってる。」

パタパタと透明な下敷きが左右に振られると、生暖かい風が肌をかすめた。
全然気持ち良いものではなかったがクーラーのついていない教室には最高の冷房機器だった。

「あんたのその髪が暑っ苦しくていけねぇや。土方さん。」
「この短髪の俺が暑苦しいならおめぇはもっと暑苦しいなぁ…総悟。」
「ってか存在が暑苦しい。」
「お前まぢブッ殺す。早く自分の教室に帰りやがれ。」

机に足をのっけてふんぞり反っている総悟の椅子を蹴り飛ばすと、
体制を崩した椅子がガタンと大きな音を立てて床に転がった。

「あっぶね。」

反射神経のいい総悟を派手に転ばすことは出来なかったのが心残りとなるが、いい気味だと鼻で笑ってやる。

「土方コノヤロー!覚えてろよ。」
「吠えてろ。餓鬼。」

土方は机に入っている教科書を鞄にしまうと椅子を鳴らした。


「帰るんですかい?」
「あぁ、終業式は部活ねぇし。」
「へぇ。」
「教室鍵閉めっから、早く出ろよ!」
「あいよ。」

式も終り夏休みを向かえた生徒達は足早に帰路についた。
真っ昼間の校舎はしんと静まりかえっていて扉が閉まる音が良く響く。

「まぁ、せいぜい一ヶ月の余命を楽しんでくだせぇ。」
「は?」
「新学期早々殺ってやりまさぁ。」

カラカラと笑いながら手を振って去っていく総悟を恨めしく思いながら教室に鍵をかけた。
窓に目をやると夏の陽射しが強すぎて思わず目を細める。

「暑…。」

首筋を流れる汗につい言葉に出した。
それを拭うとべっとりと手にまとわりつき最初からタオルで拭えばよかったと、
鞄から部活用に入れているタオルを引き出した。

「おぉーい!土方じゃないか。」
「あ?」

廊下の端から聞こえる声にそちらを向くと、Tシャツにジャージ姿の長谷川が手をふり此方へ向かってきていた。

「先生。」
「なんだ、まだ帰ってなかったのか。」
「今帰りっすよ。」

鍵をかけていて遅くなったと言うと、学級委員だもんなと何故か笑われる。

「じゃあついでにコレも鍵かけてきてくんない?」
「なんすか。」
「プール。」
「はぁ?嫌っすよ…遠いじゃないっすか。」
「んなこと言わずに頼むよ!これあげっから。」

長谷川は無理矢理土方の手を表に向けるとその上にプールの鍵と飴玉を一つ落とした。

「じゃーな!頼んだぞー!そして早く帰るんだぞー。」
「俺は餓鬼か…。」

てのひらの飴玉をじっと見つめながら用事を頼んでおいて早く帰れとは何事だと、
ワンテンポ遅れた怒りを持て余すもプールへと向かう。

日陰の少ないプールまでの道を歩くと、尋常じゃないほど額から汗が流れ出た。
運動もしていないのにこの汗。部活が始まったら怖いなと、部室を通り過ぎたと同時にそう思う。

「誰もいないよな…。」

プールへと続く階段の前に立ち金網の扉をガチャンと鳴らした。
サビついていて中々言うことをきかないそれと格闘し更に汗を流す。
鍵より扉変えろよと、生徒の悪戯で壊され、最近新品になった鍵を差し込みながら心の中で舌打ちをした。

「あー、何。閉める気?」
「は?」

頭の上から聞こえた声に鍵を回そうとした手を止める。

「誰かいんのか?」
「鍵閉めんならそこに置いといてよ。閉めとくから。」
「部活の奴以外立ち入り禁止だぞ…。」
「大丈夫。水には入ってねぇから。」

拉致があかない。大声ではなしていても中々解決しそうにない相手に面倒くさいと思いながら階段を上った。
上りきって犯人の姿をみた土方は思いきり肩を落とす。

「…お前か。」
「なんだ。多串くんか…。」

日に光る銀髪を風に揺らしながらソイツはプールサイドに寝転がっていた。
プールに入っていないと言いながらズボンを膝上まで捲りあげた両足はちゃっかり水に浸かっていた。

「HRにも出ないで何やってんだ…。」
「式には出た。」
「出席になんねぇぞ。」
「大丈夫。長谷川さんに会ってるし、居ることアピールしといたから。」
「お前なぁ…。それじゃあ…」
「あーっぢぃ…。」
「話を聞けよ。」

暑いならこんなとこいないで帰れと寝転がる銀時の頭を爪先でこづいた。

「鍵がかけらんねぇだろ。」
「だから置いといてくれれば俺がかけとくって。」
「そうはいかねぇ。」
「真面目だよね。」
「おめぇが適当すぎんだ。」
「わかった。帰るよ。」

銀時はそう言うと水から足を出し上半身を起こして大きな欠伸をした。
第2ボタンまでだらしなく開いたシャツから見える肌がやけに白くて何故かゴクリと喉が鳴る。
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