若いんだからしょうがない

真夜中のテルコール
1ページ/1ページ





たまに不安に襲われる夜がある。
何が不安って…なんか漠然としていてこれと言うものはないのだが、不安に押し潰されるようで眠れない。

真っ暗な空間がいけないのか?電気をつけてみるが明るすぎて逆に眠れない。
テレビでも見ようか?
つけてみれば砂嵐…

何をやっているんだとリモコンの切るボタンを押した。

また電気を消してみる。
真っ暗な無音の世界…
ああ、嫌だな…

何が嫌だって…
わからないけど、将来とか?
いや、まだ高1だし考えるのは早いと思うんだけど…でも決して遠い未来でもない…。
遠い未来と言えば…
あと20年後は何をしてるんだろう?
働いているとは思うんだけど、一体何をして過ごしているんだろう?
そしてまた、遠い未来…
いつまで生きれるんだろう…
いつかは自分も死ぬのだ…

そしたら何処へ行くんだろう?


生まれ変わったら…


今のこの自分は
この生活は…


誰もわからない

誰も知らない…


僕は…何処へいくの?



ドクンと心臓が大きく震えた。
不安が身体中を巡るようで気が狂いそうだ…


ああ…
誰か…頼むから傍に来て


飛び起きて急いで携帯を手に取った。
暗闇に光るディスプレイが眩しすぎる…目を細目ながら必死にその名前を探した。

午前3時…


非常識だとわかっていながら、その名前を見つけたとたん…着信ボタンを押す


1コール目


2コール目


3コール目


出るわけがない…
こんな夜中だ、寝ているに決まっている。

だけどあと一回…
あと一回のコールで出なかったら諦めよう…


4コール目……



「……はい」



でた…

まさかの出来事に思わず口ごもる。
何か言わないと…
思ってはいるのに声が出ない。早く応えないと切られてしまう…
ああ、でもなんて言えば…


「…新ちゃん、だよね?」

寝起きの鼻にかかったような声。どしたー?といつもと違うスピードの遅い声がスピーカーから聴こえる


伍丸だ…


その声を聞いて急に息苦しくさがなくなる。
肩に入った力がすっと抜けていくのがわかった。

「ごめん…」
「なに?どうした?」
「こんな遅くに…」
「うん、珍しいね」

欠伸をする声が聞こえた。本当にごめんとさらに謝ると伍丸の笑い声が聞こえる

「話しなよ、何かあったんだろ?」
「うん…いや、本当に下らないことなんだけど」
「うん」
「…眠れないんだ」

かいつまんで言い過ぎて、何だか間抜けな理由になってしまった。こんなの、伍丸にとっては迷惑以外の何物でもない…黙っているのはそのせいだ。
眠れない奴の暇潰しに起こされたと思われても仕方がないともう一度ごめんと謝る。


「…新ちゃん」


一間あけて伍丸が声を出した。



「行こうか?」



当たり前のように
そして、真剣な声で…

ああ、この人は…
嬉しくて涙が出そうになるのを必死に堪えた。
電話なのだから見えるわけではないのだが、きっと声でもバレてしまう。

「伍丸」
「ん?」
「ありがとう…」

何が?とその人は笑う。
今すぐに来てと言えば、わかったと言って駆けつけてくれる…
そして笑いながらどうしたんだよと言ってくれるに違いない。

会いたいよ

やっぱり僕には君が必要なんだ…

遠い未来
どんな不安が襲っても
君がいれば、恐くない気がする…

なんて、いま伝えた所で伍丸にはよくわからない話。

「大丈夫、眠れるよ」
「平気?」
「うん…」
「そう」

よかったと伍丸は笑った。そして、ビックリしたよと初めて本音を話し始める。
行くとは言ったものの、向かってる途中で寝られちゃったら困るしさといつもの伍丸のリズムで軽快に話す。その声がとても心地よくて、目を瞑れば眠気に誘われそうだった。

「伍丸の声は…すごいな」
「え?」
「…目、覚まさせちゃって…ごめん」
「あぁ、大丈夫。オレすぐ眠れる人だから」
「ごめんな」
「いいって、もう大丈夫?」
「ああ…」
「うん、よかった。じゃあ、また明…」
「伍丸…」

遮って名前を呼んだ。
正直、言いたいことはとくになくて…ただ、まだ声を聞いていたくて…引き留めただけ。
受話器越しに、まだ伍丸を感じていたくて…


「いや、本当にありがとう」


伍丸はうんと頷き、静かな声でおやすみと言った。
おやすみと返事をして相手が電話を切るのを待った。暫くしてツーツーと電子音が聞こえると携帯を閉じて枕元に置く。
相変わらず部屋は真っ暗で、しんとした空間。でも先程の不安は一切消えていた。ベッドに横になろうとしたところで携帯が震える。なんだとそれを手に取るとメールが一通。


『羊が一匹、羊が二匹…』

伍丸からだと、彼らしいメールの内容に思わず笑ってしまう。八匹まで続いた後、暫く空白が続く。
終わりかと思いつつ、それを下へとおくり続けると、最後に一文…


『大丈夫、俺がいる』



ああ
どうしてこの人は…



…“行こうか?”


理由を言わずとも、わかってくれていたんだ…
何も言わず、眠れないとしか言わない迷惑な電話に文句ひとつ言わず、ただ笑ってくれた。

それはきっと、
すべてを一瞬でわかってくれたから…

携帯を握りしめると、その暖かさに自然と笑みが零れた。

もう恐くない
もう大丈夫…


明日になればあの笑顔に会える
明後日も、しあさっても…伍丸がいれば、不安も何もない。

毛布をかぶり目を瞑る。


…“俺がいる”



ああ
いい夢が見れそうだ…






…………………………

伍丸を男前にしたかった話。新ちゃんが無意識に伍丸を頼っちゃう感じを書きたかったけど…
伍丸大好きっ仔になってしまった…

おそまつ


20101211


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ