赤い月夜が僕等を嗤う

□赤い月夜が僕等を嗤う 09―Despair
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ずっと走り続けた。切れる息さえ、気にならなかった。

もっと前にこうすれば良かったんだと、今は思う。
毒を盛られたあの日に、逃亡すればよかった。



今の私には、恐怖という感情は無かった。
いや、恐怖だけには及ばない。多の感情を欠落している事が、自分で分かる。





「(祖父に・・・・会いたい)」





三週間も私がいない間、祖父はどうしていただろう。
私が憎悪に歪んでいる事を、彼は責めるだろうか。

もうすぐ、街に着くはずだ。私が求め、焦がれた、あの街に。





けれどそこで待っていたのは、私が望んでいた光景では無かった。





「な・・・ん・・・・・で?」





かつての街は、灰と瓦礫と化していた。家の形が残っている屋敷は、一つもない。
死体の腐臭に包まれ、蝿が飛び交っている。

脆く儚く崩れ去った、街。人。
私の、希望は絶望と化した。



街の跡に吹く風は、この街と同じように、荒んでいた。
砂埃を運び、また汚れた空気をも、運んでくる。





「・・・・そ、うだ・・・」





私ははっとして、祖父の家と剣道場があった、場所へと走り出す。
この角を曲がって、三つ目の家。
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