赤い月夜が僕等を嗤う

□赤い月夜が僕等を嗤う 04―Largh
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また、いつもと同じように朝が来る。それに恐怖を感じるようになったのは、いつからだろう。

嘘。尋ねなくとも理解している。あの日からだ。
服の中に刃物の破片を入れられ、食事の中には毒を盛られ。





「姫様、お目覚めになられましたか?」





レイチェルがおずおずと、部屋の中に入ってくる。
彼女は衣服を棚の上に置くも、私は彼女の方に視線一筋やらない。

ごめん。でも今はもう、貴方すら信じる事が出来ない。





「お食事は・・・「いらない」





自分でもその言葉は、冷たくそっけなく響いた様に聞こえた。
びく、と脅える様に彼女の肩が震えた。罪悪感が胸の中を埋める。





「でも・・・姫様、もう四日も食事を口にされてないでは無いですか・・・」





彼女は、震える口元で告げる。
本当に彼女は知らないのか、それとも知らないフリをしているのか。

所詮は王女に仕える身だ。私に仕えさせているのも、“それらしく見せる”為、だけだろう。





「いらないって言ってるの!」





声を張り上げて口にすると、彼女は俯いて「・・・出過ぎた真似を致しました」と小さく声にした。
そして軽く会釈をすると、私の部屋から去って行った。















「・・・・どうやら、“彼女”は病んでしまわれたようですね」





ぽつりと、低音の声が部屋の中に響く。
心配している様でもなく、ただ単に思いついた事を口にしただけ、といった様子だった。

その言葉に反応する様に、甲高い笑い声が返ってくる。
まるで狂ったようなその笑い声にも、“彼”は大して気にもしないようだ。


「このまま、“彼女”が死んでも宜しいのですか?」と、ふと“彼”が漏らした言葉。
“彼女”は笑い声を止めた。そして“彼”を見つめて、低い声で残酷な言葉を告げた。





「確かに、ね。そんなに呆気なく死んで貰っても面白くないわ。あの女の娘ならば、余計。」





そこで“彼女”は言葉を切った。おかしくてしょうがないといった様子で、口端を上げながら、続ける。
“弱者らしく、穢れたイキモノらしく、死んで貰わないとね。”と。



“彼”は“彼女”を見つめて、ふっと微笑む。





「其れでこそ、貴方です。ロザリー王女。」





それだけ口にすると、“彼”はロザリーに背を向けた。
「どこへ行くのかしら。」とロザリーが尋ねると、“彼”は嗤った。





「貴方の目的を叶える為に。王女。」





“彼”に躊躇する、という感情は無かった。
全てが全て彼女の為、全てが全て彼女のモノ。それが“彼”にとっての、全てであるという様に。


王女は満足げに微笑んで、“彼”を見つめた。
彼はそれに答える事をせずに、部屋を後にした。
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