短編
□ただ君だけを…
1ページ/1ページ
「ミツバ」
ある晴れた日、嬉しそうに土方や沖田の方を見つめる彼女に話しかける。
「あっ龍二さん」
ミツバは優しく微笑んだ。
「稽古は良いの?近藤さんに怒られちゃうわ」
「良いよ、別に。俺はアイツらと違って優秀だから」
俺がそういうとミツバは「もう、龍二さんったら…」って言ってクスクスと笑った。
―可愛い。
ミツバの笑った顔は凄くあたたかくて可愛い。
顔には出さず心の中で呟く。
ミツバは誰にでも優しくてその綺麗な笑顔を見せる。
だから、苦しい。
その笑顔は俺だけに―
「龍二さん?」
「うおっ!?」
ミツバに呼ばれ我に返ると、ミツバの顔が目の前にあった。
ドアップって程でもないけど、いつもより少し近くに顔があるだけで必要以上に驚くし、心臓がドクドクと騒音を上げて騒ぎ立てる。
煩いし隣に居るミツバにも聞こえるんじゃないかと思う。
「何か悩み事でもあるの?凄く真剣な顔をしてたから…」
「何でもねえよ。大した事じゃねえし」
―嘘だ。俺にとっては大した事だし、頭から離れない夢だ。
「そう…。でも一人で抱え込まないで、誰かに相談するのよ?苦しい事や辛い事は、誰かと共有しないと凄く、辛いでしょう?」
ミツバは寂しそうにそう言った。
「…あぁ」
…俺は知ってる。
ミツバが土方(あいつ)に惚れてるってな…。
それに…土方(あいつ)も…
だから俺は―
「ミツバ、もし言いたい事があるんなら躊躇わずにソイツに言えよ」
突然の俺の言葉にミツバは不思議そうな顔で俺を見る。
「今、言いたい事を言わずにいたら一生、後悔するぞ。…俺みたいにな」
「龍二さん…」
最後の一言は本当に小声で言ったから、聞こえたかはわかんねえけど、ミツバは何とも言えない表情をしていた。
「うっしゃー。稽古再開するかー」
言って立ち上がる。
ダルそうに言えたか不安だ…。
「ふふっ。本当に稽古が嫌いなのね」
ミツバは微笑みながら言った。
良かった。うまく言えたみたいだ。
「だってダルいし。…じゃ行ってくるな。そんで土方のスカした顔をグチャグチャにしてやる」
「ふふっ。あまり、いじめちゃだめよ?」
「俺、総悟と組んでるから」
土方(あいつ)の事を話すミツバは、俺や総悟達とは比にならねえ程、嬉しそうな表情(かお)をする。
ズキズキと痛む心を隠すように、俺はピースしながら言った。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「おぅ」
ミツバの笑顔を見てから歩き出した。
―叶わぬ恋を諦めるから…
せめて、君を…
ミツバ(きみ)だけを見つめていたい―
終.