短編

□ただ君だけを…
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「ミツバ」


ある晴れた日、嬉しそうに土方や沖田の方を見つめる彼女に話しかける。


「あっ龍二さん」


ミツバは優しく微笑んだ。


「稽古は良いの?近藤さんに怒られちゃうわ」


「良いよ、別に。俺はアイツらと違って優秀だから」


俺がそういうとミツバは「もう、龍二さんったら…」って言ってクスクスと笑った。


―可愛い。


ミツバの笑った顔は凄くあたたかくて可愛い。


顔には出さず心の中で呟く。


ミツバは誰にでも優しくてその綺麗な笑顔を見せる。


だから、苦しい。


その笑顔は俺だけに―


「龍二さん?」


「うおっ!?」


ミツバに呼ばれ我に返ると、ミツバの顔が目の前にあった。


ドアップって程でもないけど、いつもより少し近くに顔があるだけで必要以上に驚くし、心臓がドクドクと騒音を上げて騒ぎ立てる。


煩いし隣に居るミツバにも聞こえるんじゃないかと思う。


「何か悩み事でもあるの?凄く真剣な顔をしてたから…」


「何でもねえよ。大した事じゃねえし」


―嘘だ。俺にとっては大した事だし、頭から離れない夢だ。


「そう…。でも一人で抱え込まないで、誰かに相談するのよ?苦しい事や辛い事は、誰かと共有しないと凄く、辛いでしょう?」


ミツバは寂しそうにそう言った。


「…あぁ」


…俺は知ってる。


ミツバが土方(あいつ)に惚れてるってな…。


それに…土方(あいつ)も…


だから俺は―


「ミツバ、もし言いたい事があるんなら躊躇わずにソイツに言えよ」


突然の俺の言葉にミツバは不思議そうな顔で俺を見る。


「今、言いたい事を言わずにいたら一生、後悔するぞ。…俺みたいにな」


「龍二さん…」


最後の一言は本当に小声で言ったから、聞こえたかはわかんねえけど、ミツバは何とも言えない表情をしていた。


「うっしゃー。稽古再開するかー」


言って立ち上がる。


ダルそうに言えたか不安だ…。


「ふふっ。本当に稽古が嫌いなのね」


ミツバは微笑みながら言った。


良かった。うまく言えたみたいだ。


「だってダルいし。…じゃ行ってくるな。そんで土方のスカした顔をグチャグチャにしてやる」


「ふふっ。あまり、いじめちゃだめよ?」


「俺、総悟と組んでるから」


土方(あいつ)の事を話すミツバは、俺や総悟達とは比にならねえ程、嬉しそうな表情(かお)をする。


ズキズキと痛む心を隠すように、俺はピースしながら言った。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


「おぅ」


ミツバの笑顔を見てから歩き出した。


―叶わぬ恋を諦めるから…


せめて、君を…


ミツバ(きみ)だけを見つめていたい―



終.
 

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