latter


スザクの声が聞こえた様な気がして振り返ったが、目が合うと居たたまれ無くなって、逃げた。

知らない。

知らない知らないっ。

俺のスザクは、女癖こそ悪いが、それには別に深い意味は無い筈だった。

心から想う女が居るなんて、知らない…っ。



本当に自分の物にしようと迄は考えなかった。

勿論、そうなってくれればどれだけ嬉しいか。


別に俺の物にはならなくてもいい。

ただ、誰の物にもならないでいてくれれば、それで良かったのに。


何で…。

何で俺は男なんだ。



…男では、そこらの女にさえ出来る、ユーフェミアの代わりにもなれやしないじゃないか。


「ルルーシュ!」

直ぐ後ろから声が聞こえる。

何しに来たんだ…。

「来るな!」

「嫌だ!」

…頑固な奴め…!

「来るなと言っているだろう!!」

「ルルーシュ何で泣いてるの!」

泣いている?

…何時の間に…。

「泣いて等いない…」

俺は疲れて、スザクに背を向けたまま立ち止まった。

「嘘だ。さっき見えたよ。…何がそんなに悲しいの?」

「うる…さい…っ」

余りの言葉に、嗚咽が漏れそうになる。

「早く何処へでも…ユーフェミア皇女殿下の処にでも行けばいいだろう!?」

…もう、いい。

もう、疲れた。

感情に任せて醜態を晒してしまえ。

「…ユフィ…?」

「お前の愛して止まないお姫様だろう!?だが御生憎様だな、お前なんかじゃ…」

言っていて、苦しくなって、言葉が続けられなくなった。

様を見ろと言いたいのに。

スザクが俺と同じ、こんな苦しみを味わうなんて、…哀しい。


「…ルルーシュ、何か勘違いを…、…もしかして君を悲しませているのは…僕?」

「………」

何と言えば良いか分からず、為す術も無く沈黙していると、唐突に後ろから抱き付かれた。

…これは、一体……?

心臓が鼓動を大きくし始める。

そんな自分を否定出来ない自分が厭わしい…。

「…こうしても、怒らない?」

「……お…、怒るに決まってる…だ、ろう…」

…今更、現実を目の当たりにされた後で、心を乱す様な事は止めてくれ。



…俺は、弱いのに。



「…ねぇ、ルルーシュ、僕の事、…好き?」

「………」

頭がぐるぐるする。

状況が良く理解出来ない。


…俺が、お前の事を好きかだと…?




あ…。


…スザクの手が、震えている?


「僕は…、好きだよ。ルルーシュの事」




え?



恐る恐る振り返る。

普段の、愛想笑いを浮かべながら人を躱す様な態度からは想像も出来ない位、真剣で切ない表情だった。


…勾引かされてしまう…。

「さっき会長に話してた人、ルルーシュの事だったんだ。…直接伝えるのは難しかったから、ああやって…」



スザクが…。



「…でも、却って君を混乱させてしまったみたいだね…」

そこで一度言葉を切ると、スザクは改めて俺の名前を呼んだ。

「僕は男だし、そうで無くても君に釣り合う事は大変な事だし…」



今、スザクが…。



「だから、男だって云うのを言い訳に、気を紛らわす為に沢山の女の子を巻き込んで…。…でも、彼女達とキスしても君の顔しか浮かばなくて、抱けば何度も君の名前を呼びそうになる…。自分の本当の気持ちを思い知らされる度、後悔ばかりが残るんだ…。……ルルーシュ、僕は男だけど、今迄逃げてきたけど、本当は、君の事が、ずっと、何よりも、…愛しかった」



今、スザクが…!



「──スザク…っ!スザク、好きっ、好きだ…!好きなんだ、スザク…っ!」

スザクの制服にしがみ付いた。

何だかもう、ぐちゃぐちゃになって、訳が分からなくなって、それでも俺の想いが許された事だけは分かった。

今迄何処かで制限していた気持ちが、溢れ出して止まらなくなり、もう手が付けられない。


「ルルーシュ…。嬉しい…」

夢に迄見た、甘い甘い笑顔を間近で向けられて、見惚れる間も無く唇が重ねられた。


頭がぼうっとする俺に、スザクは何度も優しいキスを落として、戯れる様に舌を絡めて、笑い掛けてくれた。


片方からしか流れていないと思っていた物が、両方から流れていると知る事で、こんなに満たされて、暖かい気持ちになれるとは。


「ルルーシュ?」

スザクが俺の顔を覗き込む。

「…いや、俺…こんなに幸せでいいのかと思って…」

今迄ずっと願って、その度に諦めて、幾度それを繰り返しただろう。



「ルルーシュ…」

スザクは愛し気に呟いて、再び俺を大切そうに抱き締めてくれた。



スザクに触れられると、何かがほどけていく様な感じがして、それは必死に堪える俺に、際限無く泣き出したい衝動を促す。


「スザク…」


俺も頭を寄せ、両手に力を込め、スザクとひとつになってしまう位にぎゅっと抱き合った。



思わずそのまま溶けてしまうのだろうかと疑ってしまう程に。

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