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「…そう、これはここの比を使って、これを代入して…」

「あっ、そうか…!」

ルルーシュの細い白魚の様な指が難解な図形の上をくるくる動く。

それだけで大嫌いな数学とも、少し仲良くなれそうな気がする物だ。

「…出来たっ!」

スザクは達成感に満ちた声を上げた。

そして解答を確認するルルーシュを、主人の指示を仰ぐ小犬の様な目で見つめる。

「──うん、合ってるよ」

極上の笑顔でにっこりと微笑まれ、スザクは少し顔を染めた。

こんなご褒美が貰えるなら、夏休みの宿題にもちょっと感謝かな…。

数学がめっきり駄目なスザクは、それを得意科目とするルルーシュに教えを請うていた。

「ルルーシュ、教え方上手いね。先生よりよっぽど分かりやすいよ」

「そんな事無いよ…っ」

「そんな事あるってー」

おどけたスザクの言葉に、ルルーシュの表情も柔らかくなる。

「あー…でも夏休み中にこれ終わるか……あっ」

と、スザクはカレンダーを見上げ、声を漏らした。

そんなスザクを、ルルーシュも英語の長文から目を離し、不思議そうに見つめる。

「今日、地元の祭の日だ…。ルルーシュっ!」

「はっ、はいっ」

スザクに勢い良く呼ばれ、ルルーシュは慌てて良い返事をする。

「…今夜、一緒に行かない?」

緊張しながらも真っ直ぐに見つめてくるスザクに、ルルーシュもその真摯な態度に応えようと、頬を赤く染めつつも目を逸らさぬよう努力する。

「…うん、行きたい…っ」





「…やっぱりあった…」

自宅のクローゼットから求めていた物を見つけ出し、ルルーシュは複雑な気分になった。

…ちょっとは期待してみたけど、まさか本当にあるなんて…。

それは正に母親が娘の為にの大量に買い込んで置いた浴衣であった。

流石に浴衣ではそう派手な物も無く、ルルーシュは珍しくその中から満足に選ぶ事が出来た。

極端に丈の短い物も全く無いでも無かったが。

もう…、またお母さんはこんなの…。

…でも、私の為なんだよね。

全く面白がってない訳では無さそうだけど…。

でも気持ちは嬉しいし、本当は感謝してる。

スザクとの事も、あんまりストレートに言ってくるから恥ずかしいけど、応援してくれてるし…。

…ありがと、お母さん。

ルルーシュはその内、普段のメールでは無く、お礼がてら電話を掛けようと決めた。


ご機嫌で選んだ浴衣にそっと腕を通す。

繊細で可愛いらしい物と、艶やかで大人っぽい物とで悩んだが、結局暗い地に鮮やかな大輪の花と蝶が描かれた後者にした。

…スザクに綺麗だ、って思われたいな。

だって折角スザクから誘ってくれたんだもん…っ。

…デート…、だよね…!?

「………っ」

意識すると急に顔が熱くなり、激しく鼓動を打ち始めた胸をギュッと押さえた。

…やばい、緊張する…っ。

「……って、あ…」

完全に浸っていたルルーシュは、約束した時間が迫っている事を知り、慌てて再び着替え始める。

が、その手はすぐにたまた止まってしまった。

「…………ん?」





スザクは着替え終えたルルーシュを一目見るなり、息を飲んだ。

やはりよく言われるように、和服に身を包んだ女性には、匂い立つ色香がある。

…ルルーシュ、艶っぽい。

それに何と言っても、普段は下ろしている長い黒髪が花飾りをあしらわれながらアツプにされた事で、白いうなじが惜し気も無く晒されている事が、色気を後押ししていた。

「ルルーシュ、すごく綺麗…」

何だか最近、ルルーシュがどんどん綺麗になってきてる気がする…。

「あ…ありがとう…っ」

ルルーシュは頬をふわっと染めた。

浴衣だと、そういう仕草もいつもよりちょっと色っぽさが増すのかな…?

…一緒に暮らし始めた頃には照れて何も言えなかったけど、今はちゃんと素直な言葉が言えるようになれて良かった。

「スザクも浴衣、素敵…だ、よ?」

頬をほんのりと染めながら、上目遣いで伝えてきたルルーシュの言葉に、スザクはドキドキしながら一瞬驚き、それから破顔した。

「…ありがとうっ」





家から離れるにつれ、人の数と、喧騒が増していった。

中心部では、本来薄暗闇であるはずの中に灯る、提灯や夜店の照明の暖色系の光が、辺りを煌煌と照らし、人々の熱気が、祭特有の雰囲気を醸し出している。

「ルルーシュ、行こっ」

手始めにとスザクはルルーシュを誘い、近くにあった金魚すくいの屋台へ入った。

「わ…可愛い…」

水を張られた中で赤や黒の金魚が風流に泳ぎ回っていた。

「待ってて、俺ルルーシュの為に頑張るから」

きらきらと顔を綻ばすルルーシュに、スザクは腕まくりをしながら笑顔を向けた。

…私の、為…?

…そんな深い意味は無いか。

ルルーシュはひっそりと照れ笑いを零した。

「どれがいい?」

「んー…じゃあこの紅いの」

ルルーシュは水の中を指差した。

「わかった。…─それっ!」

軽快な掛け声と共に、左手に持ったお椀には、ルルーシュの望んだ紅い金魚が泳いでいた。

「すごい…!」

ルルーシュはスザクの技に素直に感心する。

「まだまだ行くよっ!」

その言葉通り、スザクはそれから何匹もの金魚を器用に掬っていった。

「スザクそんなに金魚すくい得意だったんだ…」

「何だか最近ね」

そうだろう、とルルーシュは思う。

確か子供の頃一緒にした時は、網がすぐに破れてしまい、悔しがっていた記憶がある。

…大人になったなぁ、スザク。


それから笑顔の固まった出店の店主に大丈夫ですよと笑い掛け、最初に掬った一匹だけを貰い、その場を後にした。


「あっ」

「…りんご飴?いる?」

スザクはルルーシュの視線の先を確認する。

「うん」

…りんご飴か…。

さすが可愛いな…。

「あ、いいよスザク。自分で買うから…っ」

財布を引っ張り出したスザクをルルーシュは慌てて止めようとする。

「俺に買わせて?勉強見てもらったお礼がしたいんだ」

ルルーシュはなおも否定したが、相手が引き下がりそうにないのを理解して、スザクに買ってもらった。

「ありがとう…」

…さっきの金魚も貰っちゃったし、…なんか本当に恋人同士みたいかも…。

「美味し?」

とスザクは笑顔で問い掛けながら、ルルーシュの方を見、むせそうになる。

ルルーシュは当然、りんご飴に控え目に舌を這わせていた。

うわわわわ…っ。

それは…ちょっと…まずいよ…。

スザクの顔がみるみる熱を帯びる。

舌…可愛…っ。

「美味しいよ」

ふわりと微笑んでで答えるルルーシュに、スザクは破裂する音が聞こえそうな位真っ赤になった。

…今度棒アイス大量に買ってこようかな…。

と、もう一度ルルーシュに首を向けた。

「…ルルーシュ…?」

隣に居たはずのルルーシュが見当たらない事に気付いて立ち止まる。

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