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「…夏よ…。夏といえば……。うっふっふ…」

彼女のよろしくない笑みに、生徒会メンバーは、ぎくりと肩を震わせた。

「諸君!夏休みに慰安旅行てプールに行くわよ!」

「…あ、今回は案外普通なんですね」

シャーリーはホッとした表情でミレイに笑い掛けた。

「いつだって普通でしょ」

「待って下さいよ、それはシャーリーは水泳部だから水着とか着慣れてるかもしれないけど…」

体育でも敢えて水泳の授業の選択を避けているルルーシュは、慌てて抗議する。

「いーじゃない。セクシーなビキニでも着て来ちゃえば?」

「会長っ!!俺も反対ですっ!!」

ルルーシュが何か言い出す前にスザクも抗議の声を上げる。

「なぁに言ってんの!」

ミレイがぐいと顔を近付け小声で、半分はあんたの為なんだからね、と囁くと、スザクは真っ赤な顔で絶句した。

「…会長、残念ですけど、私ビキニどころか、水着持ってませんから」

「あぁ、それはルルーシュのお母様の買い置きがあるから、帰ったら探してみなさいよ」

「……え…?」

「じゃあそんなに言うんだったら、民主的に多数決で決めるわよー。慰安プールに賛成の人ーっ?」

会長の呼び掛けに、シャーリー、リヴァル、カレン、ニーナが思い思いの欲望を胸に、賛成する。

ミレイはルルーシュとスザクに向かって、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべた。

「はぁい、決、定!」





「…本当にあった……」

ルルーシュは自宅のクローゼットを物色し、容易にそれを見付けると、げっそりした顔で溜め息を吐いた。

何となく予想は付いていたが、大量に出てきたのは、面積の狭い水着の数々だ。

勿論その中にワンピースは一着も無く、全てセパレーツで統一されている。

ルルーシュの母親はよく娘に着せたい衣類を買い込んでは蓄めていた。

露出度の高い官能的なそれらを、ルルーシュが好まないからである。

…普通母親ってこういうの着せたがらないんじゃないのかな…。

けど、何でそれを会長が知ってたんだろ……?

仕方なくルルーシュは、その中でも、比較的露出度の低い物、特に他人には見られない下着等を選んで着ている。

…お母さんみたいなスタイルじゃないと似合わないでしょ、こんなの…。

ビキニの一つを持ち上げて、母親に似なかった自分の身体を恨む。

まあ、勿体ないからどれかは着るけど…。






セクシーな、ビキニ…。

ルルーシュがセクシーなビキニ…っ!!

「あああぁぁ!!駄目だ駄目だっ」

スザクは枕を抱えてぶんぶんと頭を振る。

見たいっ、すごく見たいっ!!

でも誰にも見せたくないっ!!

「………」

……待て俺、落ち着け…、ちょっと…大分おかしいぞ…。


…確か会長は、ルルーシュのお母さんが買ってきた水着って言ってたよな…。

という事は、ルルーシュのお母さんが、清楚な水着を買っていれば何も問題無いんじゃないか。

いや、でもルルーシュの場合、水着ってだけでやばいよな…。

そのままでも可愛くて危なっかしいルルーシュを、更にセクシーな姿にして公衆の面前に晒すなんて…っ!!

「危険だ…危険過ぎる…っ」

「何が危険なの?」

突然の問い掛けに、驚いて発しそうになった大声を、スザクは既の所で止めた。

「る、ルルーシュ…っ、何でもないよ…っ」

…危険なのは俺か…。

「…そう?お夕飯出来たよっ」

「ありがとう。……あっ、そういえばルルーシュ、言ってた水着見付かった?」

今迄ずっとその事を考えていた素振りは全く見せず、飽く迄たった今思い出した様に、自然に、問い掛ける。

「あ…、うん…まあ…」

ルルーシュは曖昧に答えた。

…元々ルルーシュ自身乗り気じゃなかったからな。

とにかく俺としては、かなり複雑な気分だ。





「あ、来た来たっ!ルルーっ」

「遅いぞ、スザクー」

「さあさあ、早速行くわよー」

集合場所である、巷で評判の民営のリゾートプールに、揃ってバスでやって来たルルーシュとスザクを、先に来て待っていた皆が、中へ、そしてそれぞれの更衣室へと引っ張っていく。


「あらぁ、さっすが水泳部。健康美の肉体が眩しいねぇ」

ミレイが水着に着替える途中のシャーリーに品定めするような視線を送る。

「なっ、何言ってるんですかっ!会長の方が…すっごいのに…」

シャーリーも負けじとミレイの身体、はち切れんばかりのバストをまじまじと見つめる。

「………」

「ルルーシュ」

二人の会話を黙って聞いていたルルーシュは、自分に声を掛けてきたニーナの方へ顔を上げる。

「大丈夫よ、私も胸、無いもの」

少しはにかんだようににっこりと笑い掛けてきたニーナに、ルルーシュは強い仲間意識を覚えた。

「ニーナ…」





「なあスザク、楽しみだよな〜」

「え?」

浮かれた調子で肩を寄せてきたリヴァルに上の空だったスザクは問い返す。

「女子の水着姿に決まってるだろっ!はあぁ〜会長どんなビキニ着てくれるんだろ。お前もルルーシュの楽しみだろ?」

「……うん…まあ…」

むしろ落ち込んでいるようなスザクをリヴァルは訝しむ。

「なんだよ〜、スザク腹でも痛いのか?カレンも楽しみだろ?」

「あぁ」

普段は硬派なカレンの即答に、二人は一瞬きょとんとする。

「おーっ、やっぱカレンも男だねぇ。てかムッツリ?な、な、誰がお目当てなんだっ?」

「……秘密だ」

リヴァルは調子に乗って更に問い掛けたが、カレンは答えなかった。

「ちぇー」

「………」

それにスザクは余計に不安を募らせた。





「おっ、みんな来たぜっ」

先に着替え終わった男子がそわそわと待っていると、女子が向こうからやって来た。

「やぁん、ルルちゃんほんとに可愛いーっ」

ミレイはルルーシュに絡み付いたまま歩く。

「ルル、可愛いよ…っ」

頬を染めて呟くシャーリーに、ニーナもコクコクと頷いている。

「お?やったなスザク、ルルーシュもビキニじゃんっ」

「わ………っ」

会長の腕の中で、困ったような表情を浮かべるルルーシュは、ひらひらとした可愛らしいビキニを着ていた。

母親が買ってきた中で、一番ましだと、ルルーシュが選んだ物である。

「お待たせー、男子っ」

「いよっ、待ってましたっ」

艶やかな女子達の登場に、場が華やぐ。

言わずもがな、スザクの視線はルルーシュに釘付けである。

夏の太陽に光る滑らかな白い肌の腕脚はスラリと伸び、細い紐一本で危うく繋ぎ止められている、広く開いたビキニの胸元が、ささやかな谷間を強調している。

やば……っ、鼻血出そう…。

…俺、生きてて良かった…!!

神様、ルルーシュのお母さん、ありがとう…!!


……ってあ、れ…?

ちょっ、ルルーシュ…!?

…それ、胸の形透けてませんか…?

うわわわわっ、やっぱ絶対先っぽ尖ってるよね!!?

やっ、やばいよルルーシュ、その上冷たい水の中なんか入ったら…。

スザクがぐるぐるしている間に一同は水の中へ入る準備をしている。

しかしルルーシュは依然、浮かない表情をしていた。

スザクはそっとルルーシュに近付いた。

「…二人で帰っちゃおうか」

「え…っ?」

耳元で囁くと、ルルーシュはびっくりした顔を上げてくる。

「このまま入りたい?」

ルルーシュは首をぶんぶん振って否定した。

スザクはホッとする。

すぐにミレイを探し、呼び止めた。

「会長っ、ルルーシュが具合悪いみたいなんで連れて帰ります」

「えーっ!!」

ミレイは当然不服そうな声を上げた。

「それに俺、家の鍵閉めてきたかどうかちょっと不安なんですよ。…という事で!」

「あっ、ちょっと…」

ミレイが止める間も無く、スザクはルルーシュの腕を掴んで行ってしまった。

「会長?あいつ等どうしたんスか?」

「…逃げられちゃった」





「…スザク、ありがと…」

「ううんっ、全っ然気にしないで!俺もあんまり行きたくなかったし」

…あれ、そういえば俺、何も言ってないよな、…いきなり連れ出して、失礼過ぎるよな。

「ルルーシュ」

スザクは立ち止まって、ルルーシュの正面に立った。

「水着、似合ってるよ。…すごく可愛い」

「………!」

ルルーシュは真っ赤になって口元を覆った。

それから聞き取れない程の声で何度かお礼を言おうとするものの詰まってしまい、結局最後の言葉まで言う事は出来なかった。

それをスザクは穏やかな笑顔で、しかし内心は決して落ち着けず、見守っていた。





「ふー…っ」

家に着いた後、スザクは何となく、小さい頃遊んだビニールプールを、庭に引っ張り出してきて、まったりと浸かっていた。

…それにしてもルルーシュ可愛いかったなー…。

本当の事を言うと、もっと見ていたかった。

しかし、他人に見られる事と天秤に掛けると、やはりこうするより他は無かったと言える。

…そういえば昔はよくルルーシュとこのプールで遊んだっけ。

と、スザクがぼーっと考え事をしていた時だった。

「す…スザク……っ」

後ろからルルーシュの声がして、スザクはそのままの姿勢で頭だけ振り返る。

「ルルーシュ…ッ!?」

そこには例のビキニに着替えたルルーシュが、少し恥じらった様子で立っていた。

「あの…、いっ、一緒に入っても…いい…かな…っ」

ルルーシュは赤く染まった顔で一生懸命伝えてくる。

いやいやいや、こちらこそ、いいんですかッ!!?

こんな狭い場所で、二人っきりで、そ、そんなセクシー…いやむしろセクシー×エロ+αみたいな格好で…っ。

………。

スザクは一息吐いて心を落ち着けると、爽やかな笑顔でルルーシュに軽く水飛沫を飛ばした。

「きゃっ…」

「おいでっ」

「…うんっ」


その後、スザクが理性と壮絶な闘いを繰り広げた事は、言うまでも無い。

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