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「暑い…」
「…暑いって言うから暑いんだよ。ほら、心頭滅却すれば、……」
「…火もまた涼しか?…下らない。だって暑いだろう!暑いと言おうが言わまいが暑いものは暑いんだ!」
「ルルーシュ、怒鳴ると余計暑くなるよ。それに君、暑い暑いって言い過ぎだよ。もう何回暑いって言ったと思う?」
「残念だったなスザク。この三十秒間で、お前は俺より一回多く暑いと言ったぞ」
「じゃあこれでおあいこだね」
「!ぐ…っ。スザクのくせに…っ」
〜真夏の生徒会室〜
「…ん?」
それは突然の出来事だった。
「…今、冷房止まったわよねぇ…。まさか、…壊れた…?」
ミレイが呟くと、生徒会室に動揺が走った。
何せ今日は、今年一番かとも言われている猛暑である。
空調無しでは、誰も生きていける自信が無い。
「あっ、あははっ、じゃあ私ちょっと管理室覗いてくるわっ!」
「会長っ、俺も行くっ!!」
ミレイに続き、リヴァルも席を発つ。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ!俺達も…」
冷房の効かない部屋に残される等ごめんだと、ルルーシュも慌てて立ち上がるが、会長様に制される。
「駄目よ、あんた達は。それ、明日までに終わさなきゃいけないんだから。ねっ、だからスザクと二人で頑張って!」
因みに、今日生徒会室に居るのはこの四人で、他は各々の用事で来れないと言う。
「…会長。誰のせいで、こんな真夏の、しかも夏休みに集まらなくてはいけない事態になっていると思ってるんですか…?」
「…んー?あははー。誰かしらねぇ?……じゃあ後ヨロシクぅっ!」
「会長っっ!!」
ルルーシュの不機嫌オーラをものともせず、ミレイは次第に温度を上げ始めた部屋を後にした。
それにそそくさとリヴァルも着いていく。
「…くそっ」
「…まぁまぁ。ほら、早くこれ終わさなきゃならないんだろ?」
半ば、空気と化していたスザクが穏やかに声を掛ける。
「…お前、腹が立たないのか?」
「だって…僕はこうやって学園生活を送れるだけで嬉しいんだ。それに、…君と二人っきりだし、ね?」
「…ス、ザ…っ」
にっこりと笑い掛けられたルルーシュの顔が真っ赤に染まる。
「…おっ、お前、変わったな…」
「そう?」
それから、生徒会室が外気と変わらない気温になるのには、そうかからなかった。
スザクの一言で、最初は上機嫌で仕事をしていたルルーシュも、滴り落ちる汗と共に、苛立ちを募らせていく。
「…分かった。ルルーシュ、雪合戦しよう。ちょっと待ってて」
そう言い残し、スザクは席を離れた。
「………」
暑さで元々筋肉だった脳みそも、完全にやられたか。
もはや突っ込む事にも疲れたルルーシュは、追いかけようともせず、机に突っ伏したまま無言でスザクを見送った。
因みにさっき俺がスザクに言い負かされたのは暑さのせいだ!
いや違う、言い負かされて等いないっ!!
ガガガガガガッ
戻ってきたかと思いきや、スザクは何やらドリルの様な轟音を響かせ始めた。
何をやっているんだ…っ!!?
これは俺に余力を振り絞ってツッコミを入れろという事なのか!?
「おいっ、スザ…っひあぁっ!?」
机から勢いよく起き上がったルルーシュは悲鳴を上げた。
「冷た…っ、何だこれ…かき氷…?」
ルルーシュは濡れた顔を手で拭いながら問う。
「そう!気持ちいいだろ?」
視線を落とした先の、コンセントに繋がれた見覚えのあるそれは、この前の生徒会企画で使った物だった。
「あぁ、あれか…」
「…ね、ルルーシュ、雪合戦しよう?」
そのいたずらっぽくキラキラ光るエメラルドに、あの幸せな夏の日と同じ色を見つけた気がして、ルルーシュは不意に涙が滲みそうになったが、慌てて手で擦る。
「仕方ないな…」
ルルーシュが削った氷を投げると、スザクは避けようともせず、軽やかな笑い声を立てる。
二人はびしょ濡れになりながら、子供の頃に戻ったかのようにはしゃいだ。
この時間がずっと続けばいいと、心の底で願いながら。