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スザクは俺の名前を呼ぼうとしたのか、唇を開き掛け、しかし閉じてから今度は先程とは違った様子で仕切り直した。

「…何で名前を呼ばれるの嫌がってたの?」

「お前はどうしてそんなに俺の名前を呼びたがったんだ?」

反射的に質問に質問で返してしまい、僅かに沈黙が走った。

「…俺は…先生に認めて欲しかったんだ」

ぽつりと呟いたスザクの意外な言葉に、俺は黙って先を促した。

「俺は確かに未熟で、子供で…取るに足りない存在かも知れないけど…、俺は、先生の事本気だから、生徒としてじゃなくて、…一人の男として見て欲しいんだ」

これで何度目だろうか、真摯なスザクの眼差しに、身動きが取れなくなる。

「先生と一ヶ月会えないとか考えられないし、でももし赤点取っても、先生との約束を破って、子供だからって言い訳して責任逃れはしたくなかったから、この一週間必死で勉強したんだよ」

今にも崩れそうな程脆いようで、決して決壊しない芯の強さを秘めている。

「先生と並ぶ事は難しいと思うけど、それでも出来るだけ近付きたいんだ。…だからそろそろ、生徒としてじゃなくて、俺自身を見てよ」


…全て見透かされた気分だ。


「…済まない」

「…え?」

俺の突然の謝罪に、真意を測りかねてか、スザクが怪訝そうな顔をした。

「…恐かったんだ。…俺はもう子供じゃないから、後先考えず感情だけで動く事は、許されない。周りには言えない関係を結んで、ふと何も見えなくなる時があって、でもお前に『先生』と呼ばれる事で、いつも自分の立場を再認識して…」

真っ直ぐなスザクに比べて、自分は何と言い訳がましいのだろう。

「…いつでも引き返せるように予防線を張っていようとした…」

消え入りそうな自分の言葉が後悔と共に自分自身にも突き刺さる。

「………」

シーツを手繰り寄せて顔を隠したまま、動けない。

スザクの顔が恐くて見れない。

失望しただろうか、軽蔑しただろうか。

自身の甚だしい臆病さが滑稽でさえある。


と、ふわりとシーツごと抱き締められる感覚がした。

「……いいよ。いいよ、もう泣かなくて」

スザクの優しい声が耳元で響く。

「…でも俺は…っ、お前に対して酷い事を…」

涙声で告げる俺の言葉を途中で遮って、スザクは俺の背中を更に強く引き寄せる。

「…大丈夫だよ。立場を弁えなきゃいけないっていうのは判るし、…今こうやって全部言ってくれたから…。ありがとう、…もう泣かないで。俺の為に自分を責めないで。許していいんだよ」

「…スザク……っ」

俺は子供の様にスザクに抱き付いた。

スザクは俺の涙を何度も指で拭い、その度に俺の口を優しく塞ぐように唇を重ねた。


キスの甘さと、泣いた後の特有の気怠さでふわふわした状態になった頃、スザクが俺の頬を両手で包み、額を押し当ててきた。

極間近で俺のとろんとした視線とスザクの上目遣いが絡む。

「……続き、しようか」

「ん……」

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