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両親はスザクがまだほんの子供の頃に離婚し、父親に引き取られたが、その父親も仕事の関係で滅多に帰ってこないというスザクの家は、とあるマンションの一室だった。

寂しくないのかと、つい馬鹿な質問をした事もある。

するとスザクは笑って答えた。

「別に。母さんはろくな人じゃなかったし、俺が生活出来てんのは父さんが働いてるからだし、それに親がいたらこうやって先生を家に呼べないし、ね?」

最後はおどけたように言ったスザクの頭を、俺は黙って自分の胸に引き寄せた。

その間はスザクも何も喋らなくなったのを覚えている。



スザクに手を引かれ、リビングに着くと、スザクはいきなり鞄をひっくり返した。

派手な音を立てて教科書やノートが散らばる。

「先生、これ」

そう言ってスザクは掻き集めた紙の束を俺に渡す。

「テスト…か…」

「そう。今日で全部返ってきたんだ。赤点無し、どれも平均点以上だよ」

スザクの平生の点数からすると、飛躍的な伸びだ。

努力の跡が見て取れ、涙が滲みそうになった。

「お前…よく頑張ったな……」

俺はスザクの頭を優しく撫でた。

「先生っ」

スザクが嬉しそうに抱き付いてきて、そのままソファーに倒れ込んだ。

「頑張ったよ、俺。先生に会えなくて死にそうになったけど、赤点取ったら一ヶ月も会えなくなるから我慢して勉強して…」

力強く抱き締めてはくるものの、スザクはまるで放って置かれた子供のようで、胸が痛んだ。

「…俺も寂しかったよ…」

「本当?先生は俺と一ヶ月位会えなくても平気なのかと思ってた」

「…全然平気じゃなかった。本当にお前が一ヶ月来なかったらどうしようかと思ってた」

久々に触れ合える喜びに、臆する事無く感情を吐露する。

「先生…」

スザクの唇がゆっくりと降りてくる。

俺はそれをおずおずと受け入れた。

唇の重なる感触が、身体に馴染んで溶けていく。

それを欲していたのだと、改めて思い知らされた。

スザクの舌は俺を確かめるようにまさぐり、甘い感覚を引き出していく。

微かな音を立てて唇が離れた時、俺は既に全身の力を抜かれていた。

「…ベッドに行った方がいいかな」

頭の芯までぼうっとさせたまま、俺はコクリと頷いた。





スザクは俺の頬や目蓋、首筋に熱心にキスを落としながら、ボタンを外していく。

俺はされるがままで、しかしながらその施される感触の一つ一つを深く感じ取ろうとした。

「…ねぇ、鎖骨に跡付けていい?」

「ん……」

鎖骨なら胸元の開いた服を着なければ問題無いだろう。

スザクの独占的が可愛いく思えて、片手で襟足の辺りを優しく撫でた。

するとスザクは心地好さ気に目を閉じ、暫し俺の胸に甘えるように頬を寄せた。


不意に唇が敏感な場所に触れ、俺は身体を震わせた。

それを見てスザクは少しだけ笑うと、胸の先に柔らかい刺激を与え始めた。

「……っ…は、…」

「…緊張してる?」

息が上手く吐き出せないのを見て、スザクが問う。

「…緊張…、ではないな」

スザクに触れられるのが久し振りで、刺激から離れていた身体が感じ易くなっているのだろう。

「んっ……」

舌で弄ばれると、神経がそこに全て集中しているのではないかと疑ってしまう位の痺れが走る。

「く…、ぁ、ん……」

漏れ出る喘ぎと共に、眉根が寄り、快感に耐えるかのように細めた目に生理的な涙が浮かぶ。

「スザク、…もっと」

スザクは少し驚いた表情で顔を上げた。

「…可愛い…。可愛い、先生。…名前呼んでいい?」

「……約束だったからな」

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