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…卵焼き、たこさんウィンナーと唐揚げにエビフライ。
お浸しにお煮しめ、それと赤と緑のお野菜も入れて…。
「わ…、すっごい豪華」
いつの間にか隣に立っていたスザクが嬉しそうな声を上げる。
「スザク」
と、同時に彼の腹が切なげな音を立てた。
「さっき朝ご飯食べたばっかりなのにっ」
ルルーシュは可笑しそうに髪を揺らす。
「美味しそうで、つい…」
スザクも照れた笑いを漏らした。
「…唐揚げの残り、いる?」
「いいのっ?」
嬉々として問い返すスザクにルルーシュは頷くと、菜箸で唐揚げを摘み、もう片方の手を添えてその口元へ運ぶ。
「はい」
ま…じ…で…!?
うわわわわ…!
うわわわわ…っ!!
これはなんて絶景…!
スザクは目の前に突き出された唐揚げをぱくりとくわえた。
俺は、幸せだ…ッ!
「…美味しい。それに凄くスタミナが付きそうだね」
「うん、今日はスタミナ付けてもらわなきゃ」
ルルーシュはお弁当を包むと両手でスザクに差し出し、満開の笑顔を向けた。
「はい、お弁当。頑張って」
「…うん、ありがと!」
気のせいでないと願いたい…。
…ルルーシュの語尾にハートマークが見えましたあぁ!!!
食べさせちゃった…。
どうしよ…っ、まるで、こ…っ恋人とかっ、奥さんみたいな…っ!!
でもあれは自然な流れだったよね!?
私の持つお箸にかぶり付くスザク…なんだか可愛いかったなぁ…。
お弁当渡す時も思わずきゅーんてなったままだったよ…。
「ルルっ!」
「ほわっ!…あ、シャーリー」
ルルーシュは後ろからいきなり声を掛けられ、奇声を発した。
「今日一緒に観戦しようよ!スザクとカレン見に行くでしょ?」
「あ、うん」
本日、学園では秋の球技大会が催される。
因みにスザクとカレンは男子バスケでクラスの選抜メンバーだ。
「すごいよねぇ、二人とも」
「ねぇ。…でもシャーリーだって水泳すごいでしょ?」
「…ルル、私の事も応援してくれる?」
ずいと顔を近付けてきたシャーリーにルルーシュは明るい笑顔を向けた。
「もちろんだよっ」
シャーリーもつられて顔を綻ばせた。
「よしっ、じゃあルルっ!私次の大会頑張っちゃうからっ」
「?うん。頑張って!」
「おっす。スザク、今日は期待してるぜ」
「あ、おはようカレン。君の方こそ。よろしくね」
スザクはロッカールームで体育着から首を出しつつ応えた。
と、荷物を漁っていたカレンの鞄からふわふわした物が転がり落ちた。
「カレン?何か落ちたよ…」
「おうわあっ!!なっ、別っ別にっ!何でも無ぇよ!!!」
カレンは、スザクが全てを言い終わる前に慌ててふわふわを鞄に突っ込む。
「そ…そう?」
…どう考えても何でも無いって反応じゃないよな…。
まあ、詮索はしないけどね。
カレンはスザクが意外とあっさりしているのを見て、ほっと溜め息を吐いた。
…危なかった。
俺の編みぐるみうさぎ(新作)…。
後でルルーシュにアドバイスを貰おうと思っている物だ。
…最近編み物の腕もちょっとはマシになってきたと思うんだが。
…褒めてくれるかな…。
あの愛らしい顔で、ふわりと笑って…。
「うわあぁぁっ!!!ちっ、違っ!!俺は別にそんな…っ」
「か…カレン…?」
スザクは、突然黙ったかと思いきや、今度は叫び出した友人を、恐い物を見る様な目で凝視する。
「俺は…っ」
カレンは力任せに鞄に顔を埋めた。
ルルーシュはスザクの…、だってのに…。
何考えてんだ俺ッ!!!
「カレン、本当に大丈夫か…?」
スザクが何やらぶつぶつと呻いているカレンを覗き込もうとすると、カレンはがばっとスザクの方へ顔を向けた。
「…スザクっ!俺を殴ってくれ!!」
「………え?」
バスケットのコートの周りで女子から発せられる黄色い悲鳴が、体育館中に響いている。
球技大会で一番盛り上がるバスケットボールという種目に、生徒会役員で人気の男子二人が同じチームで試合をするという事で、注目度は最高だった。
…わあ。
そんな喧騒の中、ルルーシュはコートの中を軽快に駆け回るスザクの姿を静かに見つめていた。
ボールを巧みに操り、フェイントを掛け敵をかわしながら、すいすいとコートの反対側まで進んでいく。
…すごい、かっこいい…。
ドキンドキンとルルーシュの胸の鼓動は高まっていく。
ルルーシュのクラスのチームは、スザクとカレンを中心に、相手のチームに力の差を見せつける。
「きゃーッ!!!スザク君ーッ!!」
と、真後ろからの叫び声にルルーシュはびくんと肩を震わせた。
「紅月君格好いいーッ!!」
「…あの子達、違うクラスだよね…」
シャーリーがルルーシュの耳元で囁いた。
「うん…」
「自分のクラス応援しなくていいのかな?」
「………」
…でも、ちょっと分かる気がする。
私だってスザクと違うクラスだったら、絶対心の中ではスザクの事応援しちゃうもん…。
「…ねぇ、ところでシャーリー、リヴァルは?」
リヴァルも同じクラスの一員である。
「リヴァルは、会長のバレーの応援っしょ」
シャーリーが苦笑しながら言った。
「あはは、そっか」
…リヴァルも一緒。
やっぱり好きな人を応援したいよね。
と、残りの時間があと僅かになったところで、カレンが相手からボールを奪い取った。
「スザク!」
そしてそのままスザクにロングパスでボールを送る。
ボールを受け取ったスザクは迷わずレイアップシュートを決めた。
そこで、歓声に掻き消されながら終了の合図が鳴り響いた。
勿論、圧勝である。
コートの中、スザクとカレンは笑顔で互いの拳を突き合わせた。
「かっこいい…」
そこら一帯の女子が溜め息混じりにうっとりと呟く。
「何だか凄く強かったね」
ルルーシュは振り返ってシャーリーに話し掛けた。
「ほんと!うちのクラス、二人が居れば予選リーグは楽勝だよ!」
シャーリーも興奮気味に語る。
ルルーシュは頷いてから再びスザクに視線を戻した。
…お疲れ様、スザク。
「なぁスザク、お前への応援凄かったな」
カレンがからかう様にスザクに話し掛ける。
「え?」
本気で首を傾げるスザクにカレンは嘆かわしい溜め息を吐いた。
「お前、あれだけ騒がれてて無自覚かよ。ほら、今も」
そう言ってカレンは観衆の方を視線で示した。
「んー…、あれ、君のファンなんじゃないか?ほら、君の名前呼んでる」
「は?そうか?」
こちらも負けじと無自覚だ。
と、スザクは溢れ返る人の中からルルーシュを見つけ出した。
…やっぱ目立つなぁ。
ルルーシュ、俺の事も見ててくれたのかな。
スザクはルルーシュに笑顔でピースサインを向けた。
途端、辺りから卒倒する様な勢いで黄色い悲鳴が上がった。
「…サービス?」
「えっ!?何が?何で!?俺はただ、ル…クラスの子に…」
「…今のも無自覚か…」
カレンは自分の事には未だ気付かぬまま、再び嘆かわしい溜め息を吐いた。
それから大きくスザクとカレンの活躍に因って、そのチームはシャーリーの予言通り、容易に学年内での予選リーグを勝ち抜き、全学年で行われる決勝リーグでも順調に勝ち進み、とうとう決勝戦まで勝ち残った。
「すごい…。本当に決勝まで来ちゃった…」
「優勝しちゃうかもだよ!!」
ルルーシュとシャーリーは手を取り合ってはしゃぐ。
「おーす!あれ、うちのクラスも決勝!?」
そこにリヴァルがふらりと現れた。
「そうだよ!スザクとカレンがすっごいんだ!!」
シャーリーがハイテンションで報告すると、リヴァルも、やっぱりあの二人はすげぇなと頷く。
「リヴァル、会長は?」
「それが、会長のところも決勝なんだよ!もう会長のアタックといったら!いやぁ、あれはもう、素晴らしく華麗で…って、いけねっ、試合始まっちゃうよ!じゃあな!」
と、そのままリヴァルは嵐の様に去っていった。
バスケットの決勝も始まる。
スザク達のチームが対戦するのは、ミレイと同学年の、経験者や他の運動部の主将等が多い、強豪だ。
試合が始まり、確かに今までのチームとは違う事を思い知らされる。
今のところ点は先を越されているが、ただ押されているだけではない。
かなり激しい接戦が繰り広げられる。
「やっぱ先輩達、強いね…」
「うん…」
狂騒の応援の中、やはりルルーシュは指を組んで固唾を呑んでいた。
…スザク。
…スザク…スザク頑張れ…っ。
「す…スザク──っ!!」
遂にルルーシュの想いが精一杯唇から放たれた。
周囲の喚声に掻き消されそうではあったが、スザク本人にはきちんと届いたらしかった。
手強い相手との試合で精神的にも疲弊していたが、ルルーシュの声が聞こえた途端、スザクの動きは今まで以上に冴えるようになった。
…ルルーシュ、俺、頑張るよ…!
その姿に力付けられ、チームメイトも気力で本来の動きを取り戻す。
そのままの勢いでどんどん巻き返していき、試合終了の合図が響き渡った時には、逆転していた。
今日一番の歓声が上がる。
「やった、ルル!優勝だよ!!」
「うん…っ、頑張ったね…!」
嬉しい叫びを上げるシャーリーに、ルルーシュはうっすらと涙目になっていた。
スザクのチームが、クラスメイトが固まって観戦していたこちらへ歩いてくる。
ルルーシュはスザクに声を掛けたいと思ったが、クラスの女子や、はたまた他のクラス、更には他学年の女子に阻まれて、近付く事はとても叶わなかった。
ルルーシュが所在無気にしていると、それに気付いた他のメンバーが近寄ってきた。
「ルルーシュさん!」
「ランペルージっ」
あっという間に取り囲まれる。
「あ…、みんなお疲れ様!優勝おめでとう!」
ルルーシュは少々体格の良い壁に気圧されながらも、笑顔で一通りの祝辞を告げる。
「うわー、癒されるうぅ」
「ねぇねぇ、俺格好よかった!?」
「えっ!?う…うん…、みんなすごかった…よ…」
じりじりと近付いてきているような気がする壁にルルーシュは少し後退りする。
…みんな…汗…が…。
「…ルルーシュ!」
と、そこに女子に囲まれていたはずのスザクがずかずかと真ん中を割って入った。
因みにカレンはまだ女子から逃れられずにいる。
「スザク…!」
やっと、話せる…!
ルルーシュは無意識に手を伸ばした。
スザクも自然に腕を広げる。
抱き合うという表現に最も近いがまだそう呼ぶには拙い形で二人は触れ合った。
「スザク…っ、おめでとう…!」
ルルーシュは溶けそうな笑みを浮かべてスザクに告げた。
「ありがとう。応援、嬉しかった…」
スザクも甘い笑顔を浮かべて応える。
「もしかしてあれ、聞こえた…?」
「聞こえたわよーっ!!」
「!?」
ルルーシュとスザクは同時に声の主に顔を向ける。
「うわっ、会長いつからそこに!?」
二人は弾かれたように身体を離した。
「あたしは今だけど…、皆はずっといたわよ?」
見渡せば、ようやく自分達が注目の的になっていた事に気付き、スザクとルルーシュは揃って顔を染める。
そんな二人をまだからかってやろうかと一瞬思ったが、流石にこれだけの人の前では可哀想な気もして、ミレイは話題を変えてやる事にした。
「ちょっと、二人で盛り上がってないで、あたしの事も祝福してよ!」
「あ、もしかして会長…」
「そっ。優勝〜」
ミレイはルルーシュに、ぱっと笑顔を向けた。
「それじゃあこれから全校生で打ち上げでもしますか!」
「えーっ!?」
周り中から驚きの声が上がった。
「当たり前でしょ!イベントの後は後夜祭!さあさあ、生徒会役員はてきぱき皆準備に取り掛かるー!」
ミレイの突然の提案にスザクとルルーシュは一瞬顔を見合わせ、それから呆れたような笑顔を交わした。