〜空色恋模様〜
窓から入った風に君の髪がふわりと靡いた。
…綺麗な髪。
艶々で、サラサラ。
首筋も耳もしなやかでとても綺麗。
華奢な背中は見ているとすぐに抱き締めたくなる。
手の甲に顎を乗せて退屈そうに、授業を聞いているのか、いないのか長い睫毛は時折微かに揺れる。
…綺麗だね、ルルーシュ。
窓の向こうの青空と、明るい陽の光と、君の周りに在る物がみんなキラキラして見えるんだ。
だから僕は君を見てると幸せになれる。
僕は君の事が好きだ。
この『好き』って気持ちが、僕に幸せを与えてくれる。
君を『好き』って想っている間は、僕もきれいな感情しか浮かばない。
…僕は、君の事が好きな事が嬉しい。
「…真っ白じゃないか」
僕の化学のノートを広げて、ルルーシュは呆れた様に呟いた。
僕はルルーシュに勉強を教わる事にした。
ルルーシュの部屋で、二人っきり。
「お前、本当にやる気あるのか?」
悪態を吐きながらも、丁寧に教えてくれる君が好き。
「まさか疲れて寝てるんじゃないだろうな」
「あーっ、ルルーシュに言われるなんて心外だな」
僕がちょっと戯けて言うと、ルルーシュに細い指で額を弾かれた。
「…たっ」
僕はじんじんと痺れる箇所をそっと押さえる。
「馬鹿っ。いいんだよ、俺は。授業なんか聞かなくたって出来るんだから。お前と一緒にするな」
「はーい…」
言い返す言葉も無い…。
「…本当に大丈夫なのか?」
何が、と聞きかけて止めた。
君がそんな風に聞く事といったら…、軍の事しか無い。
「…大丈夫、疲れてないよ。授業中も寝ては…、いないし」
…ただ君の事見つめてて授業に集中出来ないだけ。
軍に行ってる間、授業に出られなかったり、勉強出来なかったりっていうのもまあ事実ではあるけどね。
「…そうか」
ルルーシュはそうやっていつも寂しそうに呟く。
「…ごめんね」
君が、僕が軍に在籍している事、快く思ってない事は知ってるよ。
それが、僕の事が心配だからっていう理由だったら凄く嬉しいけど。
…でも、これだけは絶対に譲れない。
「謝るな。お前の事を俺が決める権利は無いからな。例え技術部でも、…怪我とかには気を付けろよ。……続きするぞ」
思わず頬が緩む。
ありがとう。
好きだよ、ルルーシュ。
…幸せだな。
「…これだけ出来れば定期テストは問題無いだろう。じゃ…、あ…………」
言葉と共に、ルルーシュの、教科書をぱらぱらと捲っていた指が突然止まった。
「…ルルーシュ?」
「…………何でも無い。…新しい紅茶煎れてくる」
僕がじっと見つめると、ルルーシュは少しだけ逡巡する様な素振りを見せたが、それだけ残すと部屋を出て行ってしまった。
…どうしたんだろ…。
何か教科書を見てて突然…。
「………っ!」
慌てて、ルルーシュを追い掛けた。
教科書の端に、君を見つめている内無意識書いたいくつかの君の名前。
多分、それを見たんだろう。
…あー…、恥ずかしい。
「ルルーシュっ!!」
僕はルルーシュに追い付いた。
「………………お前、あれ…」
「あー…、やっぱり見ちゃった?」
「………」
この沈黙は肯定。
「ルルーシュ…、…ごめんね?」
「……謝るな…っ!」
白い、いつもは白い耳と首筋が真っ赤に染まってる。
「…それは……いいって事?」
「………」
この沈黙も、…多分肯定。
「ルルーシュ」
僕はルルーシュの両手を取って、その唇にそっと触れた。
「………」
ルルーシュは依然として真っ赤になって固まったままだけど、ちゃんと僕のキスを受け入れてくれた。
顔が、どうしようも無く綻ぶ。
今はルルーシュの事を、綺麗というより、可愛いと思った。
「好きなんだ。ルルーシュ」
教科書の端に書いた、片手に収まってしまう程の君の名前の数なんかよりももっと、君の事が好き。