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「おめでとう!遂に想いを遂げたのね!」

「はい?」

会長様の言う事は大抵自分には理解出来ないが、今回は特に、話が全く見えず、スザクは間抜けに問い返す。

「んも〜っ、はい?じゃないわよ!ルルーシュと付き合う事になったんでしょ?」

「えっ、何ですかそれ!」

思いも寄らない返答に声がひっくり返った。

「…まさか、相合傘して帰って告白してないとか無いでしょうねぇ…って本当にっ!!?」

「………」

きまり悪そうに口をつぐんだスザクを見て、ミレイは呆れたような溜め息を吐いた。

「あんたねぇ、どこの世界にそんな……。…ルルーシュはモテるのよ?ぐずぐずしてたらどっか他の男に持ってかれちゃうわよ?いつまでも幼なじみだからって…」

「分かってますよ!!」

ミレイを遮ってスザクは声を張り上げた。

接いで今度は噛み締めるように呟く。

「そんな事、百も承知です。…大切だからこそ、伝えられないんです」

普段とは違う突然のスザクの変貌にきょとんとしていたミレイだが、その言葉に得心する。

…なるほど、ね。

一瞬切なげな表情も映したが、次にはもういつも通りの冗談半分の態度になった。

「…そうなの。あーあ、一緒に住んでるんだったら共に一夜位明かしたかと期待しちゃったわよ」

「えっ、何で知ってるんですか」

「…は?どっちが?」

「どっちもです」

ミレイは固まった。

「あんた身体だけ奪ったの!?」

さっきの発言は何だったのか。

と、そこに張本人のルルーシュが向かって来る。

「スザクっ!!何か変な事話して無いよね!?」

「あーらルルちゃん、やきもち?」

ミレイはスザクにぴたりと寄り添った。

「はッ!?何言ってんですか会長!!」

ルルーシュは顔を真っ赤にさせた。

…って、からかってる場合じゃないわ。

「あんた達、一夜を共に明かしたの?」

数秒考え込んだ後、ルルーシュは溜め息を吐いた。

「…私熱出して、それでスザクが一晩中看病してくれたんです」

…なんだ。

ミレイは心の中で安堵の溜め息を吐いた。

今の時代珍しい程純情カップルだと思っていたものを裏切られたかと思ったが、そうでは無かったらしい。

スザクがただの天然ちゃんだと思っていたのを裏切られたから、そう思っちゃったんだわ。

それにしても、どこまでも愛しい二人組だ。

「…私もう行きます。報告書を提出してない団体の確認でしたよね」

「そうよー。よろしくね」

話の内容に納得したのか、これ以上墓穴を掘られる事を恐れたのか、ルルーシュはそそくさと去ってしまった。

「かーわいいわねぇ…」

「はい」

スザクは間髪入れずに答えた。

「あんたも彼女作ったら?」

突然ミレイはいつからか後ろの席で黙々と仕事をこなしていたカレンに話を振る。

「あんたならより取り見取りでしょ」

なんせカレンは硬派な所が素敵だの、学ラン姿が堪らないだのと、女子から高い支持を得ている。

「…オレは別に…」

「ルルちゃん可愛いとか思わないの?」

「会長っ!?」

スザクが慌てる。

「べっ、別にっ、あんなっ、女…」

カレンは湯気が出そうな程顔を赤くさせた。

こちらも恋愛に関しては不得手である。

「ほうらね、スザク」

ミレイが、だから言ったと言わんばかりの視線を投げ掛けてくる。

「カレン…、ルルーシュをあんな女なんて…」

「なっ、なんだよスザクっ、別にお前の女に手なんか…」

「おっ、俺の…っ!?」

「何でそこで赤くなるんだっ!!」


ミレイは吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

生徒会メンバーはどいつもこいつも純情な奴ばっかりね。

…ん?

ところでシャーリーは誰が好きなんだっけ…?





会長、また私の事からかって…。
別にやきもちなんか妬いてないもん。

また何か変な誤解されたら困ると思っただけで…

「ルルっ!」

と、前方からシャーリーが手を振ってくる。

「シャーリー。これから生徒会?」

「うん!ルルも?」

「そう、帰るとこ。…ねぇ、もしかして前髪切った?」

「えっ、分かる?」

よく見なければ気付かない程の変化を指摘され、シャーリーは少し驚く。

「分かるよ」

ルルーシュはにっこり微笑んで返す。

「もしかして、変…かなっ」

シャーリーが今度は不安気に問う。

「ううん、可愛いよ」

「か…っ」

さらりと答えたルルーシュにシャーリーは頬をぶわっと染める。

「もっ、もうっそんな事言って…!」

照れ隠しにルルーシュの背中を力一杯叩いた。

ルルーシュが盛大にむせている事には勿論気付いていない。

ルルの方が可愛いくせに…っ!

「行こっルルっ」

ルルーシュの手を取ると、繋いでシャーリーは生徒会室へと歩きだした。





…誰もいない。

チャンス!!

カレンは自分の鞄を漁ると、鉤針と編みかけの毛糸玉を取り出した。

それから可愛らしい編みぐるみの写真が沢山載っている本も一緒に。

最近のカレンの誰にも言えない趣味である。

季節外れ等という事は、今の彼にとっては他愛も無い事だった。

不器用な手つきで教本と手元とを交互に睨みながら鉤針を動かす。

「…そこ、段が違うんじゃない?」

「っ!?」

突然の声にカレンは驚いて振り返った。

「ルッるッルル…っ!!」

「編み物好きなの?」

ルルーシュは意外そうに訊ねてくる。

「べっ、別に好きじゃねぇよ…」

思わず目線を逸らして、苦し紛れに答えた。

いつから居たのだろう。

部屋に入ってきた事さえ気付かなかったとは、自分は相当熱中していたのだろうか。

「でもやってるの?」

こんな時期に。

「好きじゃねぇって!手芸もお菓子作りも好きでやってる訳じゃねぇんだからなっ!!」

「…そうだったんだ」

まさか硬派だ雄々しいだ言われているカレンに、こんな可愛らしい趣味をいくつも持っているという側面があったとは。

「…お前だけか?」

「うん」

来る途中でシャーリーは部活の急な呼び出しを受けてしまった。

「あっ、あのさ、…」

カレンはしどろもどろ切り出す。

「ん?」


周りが勝手に固定観念を持っているだけで、決してそれにそぐいたいという訳ではないが、男としてとても言い出せない。

…可愛い物が大好きだ、等と。

だから自分だけが知る趣味にしてきた。

…しかしながらだ。

カレンは壊滅的に不器用であった。

今までに満足に物作りが出来た試しが無い。

それはどうも少し切ないものであった。


確かルルーシュは家庭科の授業の時に並々ならぬ才能を発揮していた気がする。

こんな場面を見られてしまったのだ。

この際開き直った方が得策かもしれない。


「…編み物…教えてくれねぇか…?」

恐る恐る隣に立つルルーシュへと目線を上げた。

「いいよ」

ルルーシュはにっこり笑って快く承諾した。


…か、可愛…っ!?

カレンはふいと顔を逸らした。

ルルーシュが可愛い事も、すごく自分好みな事も気付いていない訳ではない。

ただルルーシュはスザクの女なのだ。

「……あっ、あとっ、他の奴には…」

「カレンが編み物とかお菓子作りとか好きって事?」

「すっ…好……」

「ちょっと!!何やってるんだ!?」

カレンの言葉の途中で、生徒会室の扉を開くなり、スザクが勢いよく割って入った。

カレンは慌てて手に持っていた物達を鞄にしまう。

「別にっ!何もっ!」

「本当か!?」

スザクがカレンを疑わしい目付きで見据える。

「あらなぁに、修羅場!?」

「えっ、ルルが修羅場っ!?」

「なになに、一線でも越えようとしちゃった!?」

「修羅場…!」

と、そこに残りの生徒会メンバーが一斉に、どやどやと騒がしく帰ってきた。


…ま、こんな環境じゃゆっくり編み物教えてもらえる時間なんてどうせそう取れないんだろうな。

カレンは一人窓の方を見つめて、溜め息を吐いた。





「ルルーシュ」

その日の下校時。

「なぁに?」

ルルーシュは隣のスザクの事を見上げた。

独占欲とも呼べる、もやもやした気持ちがスザクの中でずっと膨らんでいる。

頭一つ分小さくて華奢な存在を、今まで以上に抱き締めたい衝動に駆られる。

腕の中にすっぽりと収めて、誰にも触れさせず、自分のものにしてしまいたい。

…とんだエゴイストだな、俺は。

「今日、ハンバーグが食べたいな」

「ハンバーグ?うん、大丈夫だよ。丁度材料も家にあるし」

「あとデザートも食べたい」

ルルーシュは微笑んで小首を傾げた。

「珍しいね。じゃあケーキでも買ってく?」

「ううん、…何か簡単な物、俺も一緒に作ったり出来そう?」

「えーと…、フルーツサンドとか?」

「それがいいな!」

ルルーシュが小さく吹き出した。

「何か今日のスザク…」

「なっ、何…?」

やっぱりわがまま過ぎたかな…。

スザクは祈るような目でルルーシュを見た。

「甘えてるみたいっ」

「甘え…」

にっこり言われてしまったけど、確かにそうかも…。

情けない、俺…。

…もう、いいや、今日はとことんルルーシュの優しさに甘えてやる。

「…甘えさせてくれる?」

「…あ、ま…っ!?………ばか…っ」

開き直った俺に、馬鹿とは確かに的を射ている。

その上、馬鹿と言われているのにも関わらず可愛いと感じてしまっているのだから、俺はきっと救いようのない馬鹿に違いない。

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